STEMMATO

□STEMMATO/after【7】
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今日一日を乗り切った緋永は、ソファーの肘掛けに体を預けぐったりと沈んでいる。小さな欠伸をし、眠たげに目を擦っていると、先程部屋を出て行った灰李が戻ってきた。彼の手には湯気を立てる二つのマグカップが握られている。


「一日目、お疲れ様」

「…本当、お前の所為で疲れたよ」


灰李はにっこりと微笑みながら手に持つその片方を緋永に手渡した。緋永はマグカップを受け取るとその水面を少し眺め、そしてゆっくりと口を付ける。檸檬のほんのりした香りが鼻腔を擽り、柔らかな蒸気はとても暖かかった。


「…美味しい」

「ん、良かった」

「灰李ってさ、」

「何?」

「液体を作るにはこんなに上手なのに、何で固体を生成する時は何時も異様な物体が出来るんだろうな」

「生成、じゃなくて其処は料理と表現してよ」


灰李は緋永のすぐ隣に腰かけ、焦点の合わない翠碧色の瞳で湯気を見つめる緋永の横顔を凝視した。重そうな長い睫毛が、その瞼が、何度も開閉を繰り返している。


(頑張ってる…けど眠そう)


灰李は手を伸ばし緋永の頭を自分の肩に引き寄せた。


「乱菊さんって、話しやすくていい人だな」

「仕事はよくサボるけどね」

「うん、仕事は面倒臭くて嫌いだけど、お酒は好きだって、言ってた」

「よく強引に付き合わされるよ」

「今度、復帰祝に、一杯やろうって、」

「それは覚悟していた方がいいね。乱菊の場合、一杯じゃなくて沢山の方のいっぱい、だから」

「それは、楽しみ、だな。…それと、隊長の日番谷…冬獅郎だけど、彼には前に一度――」


増してくる肩の重みに灰李は苦笑を漏らした。やがて言葉は完全に途切れ、鎖骨に規則的な呼吸を感じ、相手が眠りに落ちたことを知る。


(まったく、相変わらず眠る時は無防備になるんだから)


その無防備な頭に指を添わせ、深蒼色の髪に口付ける。少々のことをできる状況にあるのはおいしいのだが、何も反応が返ってこないのは寂しいし、今日はこのまま寝させてあげよう。
灰李はゆっくり緋永を押し倒すと、相手の身体をそっとソファーに沈めた。


「おやすみなさい」


マグカップを片付けてから緋永を部屋に運ぼうと思い、そう囁いて起き上がろうとした時、灰李は緋永の手が自分の死覇装を掴んでいることに気付いた。灰李は目眩を覚え深く溜息をついた。


(仕方がない、もう少しこのままでいようか)


穏やかに眠る緋永の寝顔を見て再度、灰李は微笑んだ。





end.

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