ありがとうございます
我らが美しき暴君<デンカ>





「あ〜なたがくれるぅせかぁ〜いはぁ〜や〜さしい風につつぅ〜まれてるぅ〜♪」


フンフフン♪ と間奏まで完璧につけ、声真似なのかかわいらしい声で歌う、目元を仮面舞踏会で使われるような豪華な仮面で覆う麗人が一人。顔半分を仮面が隠してしまおうとその美しさが損なわれることはない。
その麗人の前には赤や緑のランプが地形を模したモニターの上で絶えず点滅を繰り返し、周囲は慌ただしく戦況を伝える声が飛び交っている。

そう戦況。つまり戦場。

殿下、殿下ぁー!!
指示を、どうか指示をぉぉ!!

という部下の悲鳴を華麗にスルーしながら麗人――ルルーシュは歌い続ける。


「いつかそんな場所へとぉ〜連れて行ってぇ〜くぅ〜ださ〜い♪」


可愛らしい声に、身体の奥底から震えが湧き上がってくる。


(ふふっ 殿下ってば)

スザクは待機しているランスロットの中で、自分の主の歌声を聞きふわりと顔を綻ばせた。


「殿下っっ!!」


ひときわ悲鳴に近い大きい声が歌声を遮る。
その瞬間――


ダァン


何かを強く殴りつけた音。
いつの間にオープンチャンネルになっていたのか、戦場にキーンとハウリングが響いた。


(めっちゃ怒ってる★)





スイートスクリーム







『私は悲しい……』


なんだ? と先ほどのハウリング音と悲壮感ただよう声に一時的に戦闘が止まる。まだ耳の奥でキーンという音が鳴っている気がする。


『思い出して欲しい。今日は何の日だろうかアラン?』


機器を両手で殴りつけたルルーシュに流し目で指名されたルルーシュ親衛隊の一人――本日の作戦でルルーシュの護衛の任を勝ち取った――、アランは、その視線に血の気が下がり震えながらも頬を赤くするという器用な事をしてみせた。
戦場ではブリタニア軍もテロリストも、今日は何かあったかと首を傾げるものが大多数。
しかしアランはビシッと敬礼して迷わず答えてみせた。


『今日はハロウィンであります、愛しい我が君!』


はい?

アランの答えに皆は呆気に取られた。もちろんハロウィンが何だか分からないからではない。この場にハロウィンを持ち出す意味が分からないからだ。
スザクだけは、こんにゃろアラン、堂々とオープンチャンネルで殿下に愛しいとか言いやがてあとでぶっ飛ばす! とブラックを降臨させていたが。


『そう、そうとも。ハロウィンだ!』


? だから何だというのだ……

皆の疑問はもっともである。
その疑問に、ルルーシュは劇的な口調で答えた。


『せっかくのハロウィン! せっかく本国から可愛い可愛いそれはもう宇宙一可愛い(大切な事なので3回言いました)妹二人がミイラ男と狼男に仮装して「お兄様(ルルーシュ)トリックオアトリートです(わ)」と来てくれたというのに!』


……はい?
ていうか何故、その妹達の仮装セレクトがよりによってミイラ男と狼男?
魔女っ子とかもっと可愛らしいのがあるだろうに……できれば“お姫様”というイメージを崩さないで欲しい。


『もちろんお菓子はしっかりと用意していたさ。当然だろう? しかし「お菓子をくださらなきゃこの包帯でぐるぐる巻きですっ」「ならわたくしは食べちゃいますわv」だと!? なんて可愛らしい悪戯だとは思わないか?』


実際にその光景を想像してみた。
若干セクシャルに感じてしまうのは、自分達が汚い大人だからだろうか?


『いっそ、お菓子をやらずにあえて悪戯されるのもアリだと私は真剣にどちらにするべきか考えていたというのにっ!!』


「あっは〜! アノ人(シュナイゼル)もアレだけど、ルルーシュ殿下も大概だよねぇ〜」と通信機の向こう側で笑うロイドにスザクは心の中で同意。
否、二人ともとても可愛いのでルルーシュの気持ちが分からなくもないが、スザクからすれば三人でじゃれあっている姿は彼も含めお花畑。むしろスザクの主コンからすれば、主のルルーシュが一番のお華だ。


『私は幸せの絶頂にいた。だというのに、まさかそれをこんなしょっっっぼいテロごときに邪魔されるとは――これをまさに天国から地獄に落ちると言うのだろう』


そんな大げさな事か? と思うが、声色から本気で“ブリタニア最強(凶)説”のあるルルーシュの殺気が溢れ、“しょっっっぼいテロ”と称されたテロリスト達も何も言い返すことができない。
どうやら自分達はこんなしょうもない理由――妹達とのハロウィンパーティーの邪魔――で、黒の皇子の逆鱗に触れてしまったらしい。


『テロリストの諸君はゼロから忠告されなかったのだろうか? いったい何の為にゼロがそちら側にいると思っているんだ。うっかり私がエリア11の抵抗戦力を殲滅してしまわないようにに決まっているだろう!』


「少しぐらい残しておかないと、活気が出ないからな」とさらりと裏事情をオープンチャンネルで暴露するルルーシュに、テロリストとブリタニア軍は「え?」の口の形のまま唖然とした。

そ……そういえば、ゼロがやたらと「今日は何があっても事を起こすな」と忠告していたな……こういう事だったのか! と彼らは過去を振り返る。
日本がエリア11となった当時から抵抗活動を続けている古参の自負から、いくら現在エリア11最大の抵抗勢力と言われる黒の騎士団ゼロと言えど、ここ数年のポッと出の新参者が何を生意気に! と逆に意固地になってしまったが……って、え……ゼロって……えぇ!?(←遅い)

正確にはゼロが自主的に、ルルーシュがエリア11で退屈をしないように且つ少しでも楽しんでもらうため、そして本当にルルーシュの都合の悪い時には――テロリストというか日本が再起不能なまでに抵抗力を削がれないようにするための意味で――抵抗活動を控えさせるためにテロリストの頭領となり、コントロールしやすいように抵抗勢力を纏め上げたのだが、そこまであえて説明する必要はないだろう。
もちろんテロ活動をする時は全力で勝つ気で望んでいるし――といってももし途中でルルーシュに何かを命令されればそちらを優先させるが――、日本人もそれで少しでもストレス発散になっているし、下手なテロ活動をして一般人に被害を出し、ブリタニア人から日本人が迫害を受けるのを防いでもいるのだから責められる謂れはない。
ギブアンドテイクだとゼロとしては本気で思っていたりする。

ゼロもまた、盲目的なルルーシュ至上主義だった。


『せっかくの善意を振り払ってまで……貴様達はよっぽど私と遊びたいらしい』


いえ、めっそうもありません! と、テロリスト達はKMFの中で慌てて首を横に振るが、もはや手遅れだ。


『いいだろう、遊んでやろうじゃないか』


だから誰もそんな事言ってないですっ!!


『今日は楽しい楽しいハロウィン。さあ、パーティーを始めようじゃないか』


ルルーシュがパチンと指を鳴らせば、G1ベースの横を併走していた特派のトレーラーから勢い良くKMFが飛び出してくる。
『白き死神』『白き悪魔』『Z−01ランスロットは化物なのか』『むしろ生身もKMF』『いつかきっと空も飛べるはず』『主コン』『あいつこそがKMFの王子様(←ごく一部のみ)』などの異名――なのか謎なものも若干混じっているが――を持つエリア11副総督の筆頭騎士枢木スザクとその彼が操る第7世代KMFランスロット。
さも不穏な異名とは裏腹に、今までのKMFとは違い純白に金をあしらったより人型に近い優美なフォルムのランスロット。
が、しかし、

KMFが仮装しとるがなーーー!!??

今日は何故か頭には不気味な笑みを浮かべるジャック・オ・ランタンの被り物。背にはためくのは血を吸い込みすぎたかのような漆黒のマント。そしてその手には、何時も容赦なく揮っているMVSではなく、ランスロットの身丈と同じぐらいはあろうかという大鎌がぎらりと鋭利に輝く。威力的には高周波で振動し敵を切り裂くMVSの方が勝るだろうが、大鎌を持って暴れる姿を想像すると視覚的にはこちらの方が恐ろしい。
武器は確かにおどろおどろしいのだが、KMFが仮装など正直滑稽にしか見えない。
ランスロットの製作者であるロイドも発想はユニークだとは思うが、外観の感想をたずねられれば滑稽な光景だよねぇ〜としか言い様がない。
しかし唯一人発案者だけは違う意見のようだ。


『相変わらずランスロットは何でも様になるな』


ほぅ、とうっとり溜息を吐くルルーシュに、スザクはうっかりジャックオランタンを脱ぎ捨てようとするのを堪えるのに、自分の手で自分の手を押さえつけた。
相変わらず、無機物――しかも己が操るKMFに嫉妬しなければならないなんて、不毛極まりない。


『そういえば、ルルーシュ様。ランスロットがランスジャックになているという事は、』


ランスジャック!?


『今日のテロは予想していたのでしょうか?』


ゼロにわざわざ警告までさせていたのに、と疑問を投げかけるアランにテロリスト達もそういえば! と気がつく。
予想していたなら、そんなに怒らなくったって……とテロを起こしているくせに怒るなとは甚だ虫のいい話だが、彼らからすれば切実な問題である。
アランの問いに、ルルーシュは忌々しそうに鼻でを鳴らして是と答えた。


『予想していたさ。ゼロの警告を聞かない愚か者が出ることぐらい。その時のために準備しておいたこの装備……なかなか手間がかかったんだ。なんていったって丹精込めた私の手作りだからな。大鎌はロイドとセシル作だが。だからお披露目する事が出来て嬉しいのだが……否、しかしやはりッ……!! この持て余した複雑な気持ちをどうしてくれるんだ!』


つまり、今日邪魔されるのを予想してランスジャックをカスタマイズ(?)し、お披露目できたのは良かったが、やはり予想していても実際に邪魔をされると頭に来る。しかし手間暇かけたランスジャックが大鎌を振るう所も見たい。いやいやしかし……のジレンマ。
結局どちらの結果になってもルルーシュは不機嫌になるのだろう。
仮にもし今日テロが怒らなければ、ブリタニア軍相手にハロウィンパーティーと称してランスジャックで追いかけっこをさせるぐらいはしかたもしれない。本国に居るためめったに会えない妹達がルルーシュを一日放さなければ、後日テロリスト相手に八つ当たりをしただろう。
この上なく運がないのは本日自ら生贄に立候補してしまったテロリスト達である。
その不運な彼らの心の叫びは唯一つ。

んなこと知るかーー!!


『だから少しばかり逝ってくればいい。さあ、“Trick or treat?”』


ルルーシュの露出している口元が残酷な笑みを浮かべた。
背後でその笑みに悶えているアランはいつもの事なのでスルーだ。少々Mッ気のある彼はルルーシュから発せられる怒りのピリピリとした空気が堪らないらしい。
本日、この場を楽しんでいるのは彼ただ一人だけだろう。


『ちなみにお菓子はお前達の甘い断末魔しか認めない』


デット オア デット―――ッ!?


いつの間にか命名されたランスジャックのランドスピナーの回転音が恐怖の足音のように戦場を駆け巡りだした。




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大幅に遅刻とか…
もはや気にしない



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