長
□一章
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記憶のなかの子どもは不鮮明ながらも
私を呼んでいた。
泣き叫び名前を呼ぶ子ども。
その子に私は確かに約束した。
「必ず、また会おうね。」
その「また」がいつになるとも、分からないけれど
確かに約束した。
こんな風に、マリア陥落から少しずつ記憶が断片的に蘇る。
大切な大切な記憶だ。
「ねぇ、ハンジ。今までの事を全部忘れたらあなたはどうする?」
「変な質問だね。全部忘れたら、忘れた事にも気付かないだろ?」
「そうだね。じゃぁほんの少し覚えていたら?」
「レノア今日変だよ?」
「ハンジ、茶化さないで。」
「じゃぁ、答える前に質問。私がほとんど記憶無くなっても、レノアは私を仲間と認識する?」
「うん。ハンジはハンジ。変わらずに仲間だよ。」
「私はそれで十分かな。覚えてる事が巨人の事だったら、なお良い。答えはこれじゃ駄目かな?私に聞かなくても、もう答えは出てるんじゃないのレノア・・・」
ハンジは軽く頭を小突いた。苦笑いで返すとレノアはレノアだよ。と両腕に包まれる形で体温が伝わった。
調査兵団の中で、名前や記憶の事を知る人は数少ない。
エルヴィン団長、リヴァイさん、ハンジ、ペトラその4人だけ。
4人とも特に驚くという事はなかった。
今のままでも問題はないって、一様に言われた。
彼らは、レノアしか知らない。
だから今のままで問題ないのだ。
グっと肩を引かれた。
「ハンジ。こいつ借りてくぞ。」
「…邪魔しないでくれない。」
「邪魔はお前だ。午後からコレは訓練復帰なんだとよ。」
「そーなのレノア?」
「えーと、知りませんでしたが、リヴァイさんが仰るならそうなんでしょうね。」
すこぶる機嫌の悪そうな顔で彼は先に歩いて行った。
舌うちが聞こえたのは気のせいじゃない。
訓練復帰最初は対人格闘術。
相手はリヴァイさん(不機嫌)。
「本気で来い。」
「つかぬことを聞きますが、リヴァイさんも本気ですよね?」
「…馬鹿か?本気でやらん訓練なんか意味ねーだろ。」
「ですよね。」
兵長の名に相応しい重圧で私はつぶれそうになった。
―逃げ出したい。こんな人になんで私勝てたの?
「お。兵長VS分隊長因縁の対決が始まるぞ!」
「賭けようぜ!俺レノア分隊長!!」
「わ、私はリヴァイ兵士長!」
「俺はレノアさんだ!」
「わたしもレノアちゃん!」
「リヴァイ兵長に賭けるぜ!」
そんなに人数もいなかったのに、どんどん人が集まってくる。
好奇の目にさらされて、さらに彼の機嫌が損なわれる。
―こんな兵長相手にするのは誰だと思ってるの!!!みんなの馬鹿・・・
「なんで、お前の方がレート低いんだ。」
「ほ、ほら前回勝ってるからですよ・・・」
「今回はわからんだろ。お前は病み上がりだ。」
「じゃぁなんででしょうね。見当がつきません。うをっあ!」
話している途中なのに、兵長の衝掌が伸びる。
「不意打ちですか。」
「ふん。」
体を回転させ回避するが、足の感覚がおかしい。
―病み上がりだからか?
「良く動くな。予想以上だ。」
「そらどうも。」
ッダン!!
鈍い音が訓練場に響いく。
ゆっくり宙がえるリヴァイさんは終始私を睨んでいた。
地面に背中をつける彼にすかさずマウントをとって
関節を締め上げた。
体格差があまり無い分、ホールドは余裕なんだけど
あまりにも兵長が怖い。
「リヴァイ兵長殿・・・また私が勝ちました。」
「―だからなんだ。」
「この事実を謙虚に受け止め、精進します。」
「お前、前の奴気にしてたのか?」
「そりゃ、気にしますよ。」
泥を丁寧に払う兵長から、信じられない言葉が出た。
「気にするな。あのおケリは八当たりだ。」
え?