短編

□君の幸せを祈るだけの存在になりたかった
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正臨←静か静臨←正か正→臨←静か…
どうとでも見れるかと





静雄は完全に身動きを止めた。
それは決して対峙する相手が静雄の反応出来ないスピードだったわけではない。しかし、驚きのあまりに両足を地に縫い付けられる程には衝撃的な光景だった。


「うっわ、本当だ。刃物通らねぇとかマジ信じらんねー」


見覚えのある軽やかな所作で飛び退くと、ととん、と軽い音を立て少し離れた距離に着地した少年の呟きが耳に入る。そこでやっと静雄は反応を見せた。


「おい、ガキ……俺が誰かわかってて喧嘩売るとは…あの野郎の馬鹿が移ったか?」
「俺の名前はガキじゃありませんよ。自己紹介はしてたでしょう?」


切りつけられ僅かに滲んだ頬の血を拭い低い声で静雄が告げれば、少年はにい、と挑発的な笑みを見せた。


「……紀田正臣」


静雄に笑みを向ける正臣は、嫌と言う程に見覚えのあるナイフを手にしている。それだけでなく、笑い方も所作も静雄の良く知る男に似ていた――否、似せているのだろう。


「まだまだパルクールって呼べる程じゃあないんですが、中々様にはなってるでしょう?」


手を広げくるりと回って見せる正臣に、静雄は確かな怒りを感じた。


「手前が何を思ってノミ蟲の真似事ごっこしてんのかは知らねぇが、付け焼き刃みてぇなパルクールとナイフさばきで喧嘩売るには相手を考えるんだったな。幾ら手前が喧嘩慣れしてるとは言えこっちは年期が違ぇんだ。何年俺があいつと殺し合いしてると思ってる」


パチン、パチン、と音をたてながらナイフを手で弄る正臣は笑みを消して静雄を見据える。


「あんたとあの人の関係こそ俺には知ったこっちゃないです。別に俺はあんたを殺したいわけじゃないし、勝ちたいわけでもない。……けど、気に入らないんですよ、あんたの存在が」



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