拍手ありがとうございます!
お礼といっても短いものですが、どうぞお楽しみください.
※もののけ姫の原作沿いverで、夢主がアシタカと出会う前の話です.
※視点がころころ変わります.
苦手な方ご注意ください.
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朝起きて、川で顔を洗って、ご飯を食べて、日中は山菜を採ったり刀を研いだりして、夜が深くなってくるとすぐ寝る.
これが私の日常です.
お姉ちゃんみたいな存在のサンはというと、死んだ牛とか狩ってきた小動物の肉を捌いて干物にしてる.あと、時々タタラ場の人たちのところへ戦いに挑んでる.
私は危ないからサンには止めてもらいたいけど、多分、ていうか絶対サンは聞き入れてくれない.
だから今日も今日とてタタラ場へ乗り込んでいったサンの帰りを心配しながら待っていた.
はずだったんだけど…….
採った山菜の泥を川で落としていると茂みが揺れる音が聞こえた.
一瞬タタラ場の人間とか旅人とかを思い浮かべてヒヤッとしたけど、それにしては小さな音だったなあと思いながら後ろを振り替える.
川辺から林までは少しだけ距離がある.目を凝らして音がした方向を見てみると、何かと目があった.その何かが何かを確かめようと、山菜をその場において中腰の姿勢で林に近寄る.
それと目線を合わせるようにさらに腰を低くすると、私に敵意がないと伝わったのか、向こうから出てきてくれた.
「わ、キツネ!!」
私は思わず叫んでいた.
子ギツネだろうか、かなり小さい.
「可愛い〜」
動物にはとことんデレデレな私は、そう言いながら腕を広げた.
するとその子は、私の気持ちが伝わったらしく腕のなかに一直線に走ってきてくれた.
か、可愛い…….
モフモフしてて癒される.
子ギツネだからか、意志疎通を図ろうとしてもなかなか通じない.やっぱり小さいと人の言ってることが分かんないんだろうな.
私はしばらく子ギツネと一緒にいた.
でもなんで一匹なんだろう.お母さんは迎えに来ないのかな.
もしかして、と私はハッとした.
「迷子……?」
-サン視点-
今日は霧が薄くて身を隠せなかったため、町から家路についているタタラ連中への奇襲はうまくいかなかった.諦めも肝心だと自分に言い聞かせるようにして、山犬の兄弟たちと住みかである洞窟へと戻る.
汗を流すために川に立ち寄ったため、髪からは雫がポタポタと落ちるのが煩わしい.
洞窟の入り口どふと立ち止まる.川で自分についた硝煙や土煙の臭いが落ちたからか、鼻がよくきいた.
「……何か獣のにおいがする」
すんと鼻をならしていると、私の妹のような存在がキツネを抱いて出てきた.
「あ、サンおかえりー」
「ただいま….そいつどうしたんだ、早く巣に返してこい」
「さすが話が早い!! 実は迷子の子らしくて、どうしようかと思ってたの」
思わずため息をつく.
「迷子なら余計に元の場所に戻してこい.母ギツネが探してるかもしれないだろ」
「た、確かに!!」
心底驚いたというふうに目を見開くので、再度頭を抱えながらため息をつく.
この子は本当にいつになったら成長するんだろうか….
すぐにでも元の場所に戻してくる!と慌てるその子にどうしようもない不安感を覚え、私もついていくことにした.
-夢主視点-
子ギツネを拾った場所に戻ってくるも、そこには相変わらずなんの気配も感じられなかった.
サンは置いておけば母ギツネが来て連れていくだろうと楽観的に言ったけど、私としてはちゃんと連れられていくところを見届けたい.
ということで、2人で少し待ってみることにした.
(こういうところで、サンが私を1人置いて帰らないところが好きだったりする)
子ギツネのために川で水をすくっては飲ませてあげる.
いくらちゃんとお碗の形を作っても指の隙間から漏れてしまうが、まあそれは気にしない.サンには葉っぱを使えと言われたけど、これもまあ気にしない.
だって、自分の手から飲んでくれるなんて幸せ!可愛い!
しばらくそうしていると、サンがふと林の方を見た.
「どうしたの?」
「いや、何かが通ったような」
「もしかしてお母さんキツネかな?」
なんて会話をするけど、どうやら違ったようだ.通りすがりの動物だったらしい.
「残念だったね.もう少し待ってようね」
膝の上に座る子ギツネの頬をうりうりと撫でる.
すると不意にサンが子ギツネに手を伸ばしてきた.子ギツネは嫌がる素振りも見せず、甘んじてその手を受け入れた.
サンは、ふと笑った.
「昔、うちの洞窟に棲みついてた犬もこのくらいの大きさだったな」
「うん.なかなかに気の強い子だったね」
「山犬に引けをとらないほど吠えてたのを思い出した」
「あれは白ちゃんたちも悪いと思うけど」
思わず吹き出すとサンも笑った.
特にしーちゃんは挑発に関しては家族で一番優れてるから.なんて目の前で言うと怒られちゃうけど.
その犬はもともと体が弱かったらしく、私とサンが世話をしたけどすぐに死んでしまった.
死んじゃったときはものすごく泣いたのを覚えてる.
ほんのすこしの時間しか一緒にいなかったけど、私もサンも、最初はその子を嫌ってた白ちゃんたちだって悲しんでた.
小さい頃の懐かしくも苦い思い出に複雑な気持ちになる.
「お前はちゃんと大きくなるんだぞ」
サンが子ギツネを撫でながら言った.子ギツネはまだ言葉を理解してないから、首を傾げて鼻をならした.
「ふふ、そのうち分かるよ」
私もサンに負けず劣らず子ギツネの体をわしゃわしゃと撫でる.
そのとき草木が揺れた.この子ギツネがいたところと同じところだ.
すると今まで私の膝で大人しくしていた子ギツネがすくっと立ち上がった.
「お迎えだな.元気で行ってこい」
サンがそう言葉をかけると子ギツネは歩き出した.
「気をつけてね.もう迷子にならないようにね!」
私はそう声をかけた.子ギツネは迷わず茂みのなかに入っていった.
子ギツネが行ってしまったあと、私たち2人はしばらくそこに留まっていた.
なんとなく動きたくなかったというのもあるし、昔の思い出に浸ってたというのもある.
私は履き物を脱いで川の浅瀬でばしゃばしゃと水を蹴っていた.サンはそれには参加することなく岩の上に座ってた.
不意にサンが口を開く.
「お前はいつまでたっても変わらないな」
「変わらない良さもあるよ!」
「だからそこが良いって言ってるんだ」
危うく川底の石で滑りそうになった.
「気を付けろ!!」
思わず立ち上がって焦りの表情を見せるサンに、「急にそんなこと言うから…」と言い訳を溢してみる.
サンは私が転ばなかったことを確認すると、ホッとしたように岩に座り直した.
「まあ、そういう危機管理能力はもっと伸ばした方がいい」
「過保護だなあ」
思わず苦笑する.
「けど真っ直ぐなところは、やっぱり変わらないほうがいい」
サンが笑う.
真っ直ぐかどうかは正直自分では分からないけど、サンが良いって言ってくれるなら嬉しい.
私は嬉しさ半分、照れ半分で笑った.
そのあと少し間を置いてから川を後にした.
森の中に入ってサンと2人で綺麗な花を摘む.たくさん摘めたところで、サンがツルを使って花束を作ってくれた.
その足で向かったのは、死んでしまった犬のお墓.
埋めて棒を立てただけの簡素なものだ.その棒の前に花束を供えた.
「お前が生まれ変わる頃には人間を滅ぼしてるからな」
物騒なことを言うサンに苦笑する.でも多分サンは本気だ….
「お手柔らかにね!」
「知らん」
そんな風に少し押し問答をしたあと、お墓に向き直る.
「また、いつか会おうね」
そう言って私たちはしばらくの間その場で手を合わせてた.
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拍手御礼文にしては哀しい気が…….
なぜキツネなのかというと、管理人がキツネが好きだからです 笑
ここまで読んでくださりありがとうございました!!
これからもよろしくお願いします!!
20160225
枦芽