捧げ物
□冬獅郎くんの恩返し?
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「…ったく、あいつはぁ」
瀞霊廷の執務室で小さな肩を震わせながらぼやいているのは、護廷十三隊十番隊隊長日番谷冬獅郎だった。
例に漏れず、いるべきはずの松本乱菊は執務時間にも関わらずふらりとどこかに出掛けており、当然ながら乱菊がすべき業務まで冬獅郎が片付けねばならない。だが、乱菊のお陰…というと冬獅郎本人はキレるだろうが、事務処理は隊長一速くなり、なんだかんだと締め切りまでまだ猶予がある書類まで片付けてしまっていた。
「……よし、何とか終わったな。これで気兼ねなく行ける」
冬獅郎は小さな肩を揉みほぐし、机の引き出しから1枚の白紙の紙を取り出した。
その紙に筆で何かを書き込むと、綺麗に片付けられた机の上に置いた。
軽く息を吐くと、冬獅郎は執務室を後にした。
【冬獅郎くんの恩返し?】
「おっ、今のは夏の風ですな」
織姫は川辺を1人で歩いていた。頬に当たった風が若干生暖かく感じ、織姫はにんまりと笑う。
「夏と言えばかき氷にスイカさん、綿菓子に林檎飴、おっそうめんにぃ、冷奴。あ!アイスキャンディさんを忘れちゃあいけませんぜっ!!」
「食い物ばっかかよっ!?」
「およっ、黒崎くんっ。お勤めごくろー様ですっ」
織姫の独り言についつい突っ込んでしまったのは、3年になり死神の力を取り戻した一護だった。
死覇装姿で1年の時とは形が変わった斬月を背中に携え、すでに固定化してしまった眉間のシワを刻んで仲間である織姫を見つめる。
「……で?井上はなんでそんなに上機嫌なんだ?」
一護は死覇装姿のまま織姫に並んで歩き始め、織姫に尋ねた。織姫は笑顔のまま両手をブンブンと上下に振りながら一護の問いに答える。
「ふっふっふ〜、あのねっ夏が来たなぁって思ったの」
「………は?」
一護は織姫の言っている意味がわからず、眉間のシワを深めて織姫を凝視する。
「夏が来たらワクワクしない?…ほらっ、黒崎くんなんて誕生日もうすぐだなぁって!」
「……いや、誕生日…ってまだ1ヶ月以上先だし、別に誕生日来たってワクワクもしねぇよ。毎年やるバレバレのサプライズパーティーを親父がするくらいだし………ま、まぁ…彼女が、いたら…ちげぇのかも……しれねぇけど…さ」
一護は若干照れ臭そうに言い、頭をガシガシと掻いた。ちらりと織姫を見ると、織姫はきょとんとして、大きな目を一護に向けて首を傾げていた。
「そっかぁ…黒崎くんはサプライズパーティーバレバレなんですな。じゃああたし頑張って、黒崎くんにバレないサプライズパーティーを企画するよっ!!」
拳を強く握って任せて!!…とばかりに気合いを入れている織姫を見て、一護は激しく脱力した。
……お、俺の後半部分の言葉…完全スルー!?
井上が超絶天然だからか?…それとも俺自体、完全恋愛対象外!?
地面に手をついて、がっくり項垂れたい気持ちを押さえて、取り敢えず突っ込まねばと一護は思い、言葉を発した。
「井上…当人にサプライズするって言った時点でサプライズになってねぇぞ」
「はっ!?これは盲点っ!!」
織姫は目を大きくして、口をぱかりと開く。一護は何となく楽しくなり、織姫の横を歩いていく。
「…そう言えば黒崎くんはお仕事中じゃないの?」
織姫の言葉に一護は笑って答える。
「いや…仕事終わって帰る所。井上は帰る所なのか?」
「うん、今日は大家さんからレタスを貰ったからレタスチャーハンしようかなぁって思いながら帰ってたの」
「……やっぱり食い物なんだ。ま、いいや…ついでだし、送っていく」
「ふぇっ!?」
さらりと言った一護の言葉に頬を赤くしてうつむく織姫。だが、そんな織姫の表情を当の一護は一切気付かず、大きな欠伸をした。
「…ふあ…ねむ…。夏が近付いたってより、今はとにかく眠たくなる春の季節だって思うな」
「あはは…『春眠、暁を覚えず』…というやつですな」
「…多分、そんな感じ」
一護と織姫は織姫のマンションに辿り着き、織姫は照れくさそうに一護に向かって言った。
「あっ、黒崎くんに見せたいものがあるんだ。よかったら上がって」
「え?…お、おぉ」
建物の前で別れるつもりだった一護はやや面くらったが、思わずゆるみそうになる顔を引き締めて織姫のあとをついて行った。
階段をあがり、織姫の部屋の階…織姫の部屋のドアの前で一人の少年を視界に捉え、一護も織姫も目を大きくして驚いた。
「…遅かったじゃねぇか」
銀髪の小学生…と言うと本人に睨まれるだろうが、それくらいの背丈しか未だない護廷十三隊十番隊隊長である日番谷冬獅郎が義骸に入り、パーカーにジーンズの格好で待っていた。
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