捧げ物
□泡沫の夢なれば永遠(とわ)に願い
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『…俺が怖いか?…女』
『……こわくないよ』
ウルキオラは井上に向かってそう呟き、手を伸ばした。そして、白い…あいつらと似たような服を着た井上が手を伸ばす。
触れる事なく、塵と化した…ウルキオラ。
2人の間に何があったのか……それはわからねぇ。
ただ、ひとつだけわかるのは……俺と井上にはない『何か』が2人の間には、芽生えつつあった。
……そう、俺には見えた。
今となっては何もわからねぇけど……俺は…あの後、すぐさまルキア達を助けに行くと言って井上を石田に託す様に見せて…あいつの事を思う井上のそばにいたくなかった……それが本音だったんじゃねぇか?…って思った。
あれから17ヶ月過ぎて…あの時の俺の気持ちすらわかんねぇけど。
俺が叶えられなかった『決着』は…ただの『闘い』の決着だったのだろうか?
【泡沫の夢ならば永遠(とわ)に願い】
一護の死神としての力が再びその身に宿り、死神代行業を再スタートさせた。
一護が力を失っていた17ヶ月の間に織姫やチャドも力をつけ、闘う仲間として今は共に虚退治をしていた。
その矢先、十三番隊の副隊長になったルキアが神妙な顔をして織姫の元を訪ねた。
「井上、すまない。少しの間で良いのだ…尸魂界に来てはくれまいか?」
戸惑いが混じった表情で、織姫のマンションのベランダから現れたルキアは開口一番にそう言った。
義骸に入っておらず、死覇装を身に纏ったルキアは僅かばかり、意思が強い瞳を揺らめきつつ、織姫に頼む。
織姫は織姫で何故自分なのだろうと思いながらも、ルキアの頼みならばと理由を聞かないまま頷いた。
「うん、いいよ。何があったの?」
「あぁ…まぁ、行けばわかる。言うより見せた方が早いだろう」
ルキアは少し悩む様に眉を寄せるが、結局はそう言い織姫の手を取った。
「井上、感謝する。早速向かってくれるか?」
「え?…うん、大丈夫」
ちょうど明後日からゴールデンウィークで学校は休みだった。1日早いがまぁ問題はないかと織姫は思い、ルキアに向かって頷く。
「そうか、すまんな。あ…一応一護にも声を掛けるか。何があるかわからんからな」
「………え?」
ルキアの呟きは織姫の耳に届きはしたが、織姫は敢えて尋ねる事はしなかった。
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「おぅ、ルキア現世に来てたんだな。井上もそろってどうした?」
一護は自室で何故か千羽鶴を折っていた。色とりどりの鶴が段ボールに入っており、一護はやや気恥ずかしい顔で織姫の視線を反らした。
「なんだ?この大量の折り鶴は?」
ルキアは露骨に眉間にシワを寄せて一護に尋ねる。一護はため息を吐きつつ、仕方なく答えた。
「バイトだよ。あの人ぶきっちょだから…俺も得意じゃねぇけど、遊子とか手伝ってくれてさ」
一護の言葉を聞いて、再度折り鶴を見てみると確かにやや不恰好な鶴と綺麗に折られた鶴があり、織姫はクスクス笑った。
「あっ、井上まで笑うなよっ!好きでやってんじゃねぇんだからっ」
「あはははっ、ごめんね。言ってくれたら手伝ったのに…」
「あ…や、それは…」
何故か口ごもる一護に織姫は首を傾げて見つめる。
ルキアは盛大なため息を吐いて、一護の死神代行証を手に取ると一護に当てて一護を死神化させた。
「折り鶴なぞ、コンにやらせれば良かろう。さっさと行くぞ、一護」
「えっ、あっ…おいっ!まだコンを入れてねぇだろっ!?引っ張るなってっ」
問答無用で一護の襟を掴んで、引きずる様に連れて行こうとするルキアに、一護は思わず叫んだ。
この後、一護は尸魂界に来た事を後悔する事になる。
織姫の自分に向けられぬ視線と共に、否応なしに気付く己の内なる闇。
……一護は、知る。
永遠に己を苦しめる存在を。
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