バトル×長編弐

□白と黒の狭間×第5章
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どうして……。

どうして…護りたいのに『力』がないんだ。

あんな顔…させたくなかったのに。

護られる…なんて……。

……いのうえ…俺は………。



【白と黒の狭間】第5章



霊骸である一護と共に織姫が姿を消して3時間あまり…一護達はほとんど傷が癒えたが、その空気はあまりに重く、誰も言葉を発しようとしなかった。
冷たい雫が空から降り注ぎ、死覇装は水を含んで重さを増し…そのせいで体が鉛のように重くなった感覚に囚われた。
だが、雨のせいでない事も、死覇装が濡れたせいでない事も全員は理解していた。
そう…太陽がないから……彼らの中で太陽のような存在である『井上織姫』という存在が彼らの命と引き換えに連れ去られたからだった。

双天帰盾を掛けていた舜桜とあやめは全員を回復させると、地面にしゃがみ込んだまま動かない一護の肩にとまった。

「……え?」

さっきまでうつろな瞳で地面を見つめていた一護は肩にとまった舜桜とあやめを見つめて目を見開いた。

「……君を助けて欲しいんだって」

「………はい」

一護の視線を疑問と取り、舜桜とあやめはそう答えた。

「……たす…ける?」

言葉の意味がわからず、一護は目を見開いたまま舜桜とあやめを見つめた。

「そのままの言葉の意味だよ。主である彼女の願いだ。彼女は戦って欲しくないけど、本当は戦いたい君の失っていく力を少しでも回復させて欲しいってね」

「………」

一護は息を飲んで舜桜とあやめを見つめる。2人の先に織姫の姿が目に浮かんだ。
連れ去られたのは織姫だ。これから自分自身どうなるのかわからず不安で怖いはずなのに…どうして一切護る事が出来なかった自分にここまで出来るのか…一護には理解出来なかった。

「…黒崎、彼らはもしや」

比較的軽症だった石田とチャドが一護のそばに駆けて来てそう呟いた。

「……あ…あぁ、井上の……盾舜六花…だ」

一護はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。顔は苦痛に歪んでいたがずっと力がないと地べたに座っていても何も意味を成さない。
重い頭を抱えながら、後悔と織姫を失った苦痛で一気にやつれた顔をしていたが、石田とチャドを交互に見つめて頷いた。

「お前らはもう大丈夫なのか?」

「あ…あぁ、刃を向けられた訳じゃないからね……だが、どうする?」

「………」

力が僅差ならば…いや、力に圧倒的な差があろうとも修行や死闘を繰り広げる事で今までは乗り切ってきた。
だから、多少の無茶であろうともそのままがむしゃらに突っ走って来れた。
そう…今まではそれで良かったのだ。
だが、今はそれが出来ない。力は失って行くばかりで修行など何の意味も持たない。

「……みなさん…中に…入りましょう。気持ちは…わかりますが」

帽子をかぶりなおしながら、浦原はそう一護達に言葉を掛けた。



****



通夜のような静けさの中、一護は肉体に戻り茶の間の片隅に座った。
うなだれる様にうつむいたままの一護の肩にはやはり舜桜とあやめが新しい守護者の表情を心配そうに見つめてる。

死神であるルキア達も石田達人間も一護を見つめ、そして総隊長である山本を見つめた。

「尸魂界の決定を伝える。井上織姫はそのまま捨て置く」

「な……!?」

一護は弾かれるように山本を見つめ、立ち上がった。

「ふざけんなっ!!なんだよそれっ!?あいつは…あいつは俺達の為に……」

「一護っ!!」

ルキアは咄嗟に一護の名を呼び叫ぶが、続く言葉はなかった。

「お怒りはわかりますがね、黒崎さん…あの霊骸である貴方から井上さんを連れ出すのは無理っすよ」

「……え?浦原さん?」

前、織姫が連れさらわれた時は力を貸してくれた浦原の言葉に一護は呆然として、浦原を見つめた。

「わかってますか?我々全員かかって彼1人に一太刀与える事すら出来なかったんすよ。しかも…彼は手加減していた。それでも…私自身は死ぬ寸前でしたし…山本総隊長さんですら触れる事も叶わなかった」

「……そ、それは…」

「彼はまさに藍染を最後に倒した貴方そのものです。我々が一番恐れていた…ね。彼の目的は定かではないですが、井上さんを取り返しに行ったとしても返り討ちにあうのが目に見えてます」

「じゃあ…じゃあ、このまま…井上がどうなってもいいって言うのかよ!?」

「……一護」

悲痛な声で叫ぶ一護をルキアは痛々しく見つめる。掛ける言葉が見つからず、肩に触れようとした手が宙を彷徨い、結局ルキアは手を下ろした。

「じゃあ、逆に問いますがね…黒崎さん、貴方は力がなくなってきているんです。その状態でどうやって彼と闘うんですか?」

「……そ、それは…」

「前の時のように行けばなんとかなる…じゃあ駄目なんすよ。その辺り…ちゃんと理解しているんすか?」

浦原は一呼吸置いてから、一護の肩で羽を休めている舜桜とあやめを見つめた。

「幸い、こちらには井上さんの最大の能力である双天帰盾があります。故に霊骸である彼らを回復する事が出来ない。能力者として彼女の使い道はないです」

「ちょ…ちょっと待ってくれ……それじゃあ」

今まで黙って話を聞いていた石田は嫌な予感が頭を掛け巡り言葉を発した。

「…えぇ、お察しの通りっす。井上さんがあちらにいようと我々にとっては脅威でもない…このまま戦いがすべて終わるまで彼の元に置いておきます」

「……冗談だろ?…浦原さん……」

「いえ、本気っすよ。それと…黒崎さん……貴方を尸魂界に行かせるつもりはないっすから…それも含めて言っておきますね」

「……な!?」

「井上さんが決断した根底には貴方が死なない事が第一にある。井上さんの意思は尊重したいですからね。無駄死にされても困りますし」

「………」

一護は何も言えず、その場に崩れるように座り込んだ。ガラスのような瞳で一護はただ、護る事が出来なかった無力な己の手を見つめ続けた。


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