捧げ物

□その距離24センチ
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あたしと黒崎くんの距離、24センチメートル。

決して近付く事がない距離。

きっと……永遠に。


【その距離24センチ】


「あの、好きな人…いますか?」

あたしは屋上の重たいドアを開け掛けて、固まった。
鉄で出来た重たいドアの隙間から、流れて来た女の子の言葉が真剣だったから。
その声の向かっている先は、見なくてもわかる。
1年の頃と少しだけ霊圧の雰囲気は変わったけど…見間違えるはずがない。
あたしは決して…間違えない。

黒崎くんの…霊圧……だ。

あたしは息を飲んでドアをゆっくり閉めようとした。立ち聞きなんてよくない。
そう……思って。
……なのに。

風の勢いが強くなって、強く押されちゃったもんだから、激しい音をしてドアは閉まった。

…ウソっ!?ど、どうしようっ!?!?

パニックをしながらも無意識に霊圧を辿っていた彼がドアに近付く。

ダメ!!…違うのっ、決して覗こうとか思ってなかったの!!……お願い、軽蔑なんてしないで。

あたしは逃げ出す事も出来ずに頭を抱えたままうずくまった。

「……何してんだ、井上?」

あたしの頭上から彼の優しい声が降ってきた。
あたしはゆっくりと顔をあげる。

「あ〜……えっと、ですねぇ。その……」

立ち上がり、黒崎くんの顔が見れずうつむいて視線をさ迷わせる……あたし。
だって…なんて答えたらいいのか……わからない。
聞いたのは偶然だけど、聞きたい気持ちは確かにあって……嘘になっちゃいそうだったから。

いろいろ考えてたら、あたしと黒崎くんの隣を横切るように女の子が走って行った。
去り際、ちらりとあたしを見たのは……気のせい?

「あ〜っと、もしかして…聞いてた?」

黒崎くんの声がまた降ってきた。
あたしは否定しなきゃって思って、勢いよく顔をあげた。

「ちっ、違うのっ!!…たまたま聞こえ……あっ!」

思わず言ってしまった言葉に恥ずかしくなり、うつむく。

なんか、全力で言い訳してるみたい。
……恥ずかしい。

「あっと…たまたまなんだろ?わかってるって……で、さ……その、どこから聞こえた?」

「ど、どこから?……彼女が好きな人は……いますか?……って所…だけど」

……と言うか、そこしか聞いてないんだけど。

更に言い訳がましくなっちゃいそうで、あたしは最後まで言わなかった。

「………ま、まじで!?あ〜…」

黒崎くんは別に怒ってる風でもなく、そう言うと黙ってしまった。
何だろう?…って思ってあたしは顔をあげると、顔を真っ赤にして、片手で顔を隠すように覆っている黒崎くんがいて、あたしは思わず見つめてしまった。

「……くろ…さきくん?」

「あの、じゃあ……そういう、事だからさ」

……何が?

「……考えて欲しいんだけど」

………何を?

あたしは意味がわからず首を傾げて黒崎くんを見てたんだけど、黒崎くんは気付かないみたいで…視線を反らして頭をガシガシ掻くと、手を振って階段を降りて行った。

……黒崎くん、ごめんなさい。あたしは一体何を考えたらいいのでしょうか?

今更追い掛けて、何を?……って尋ねる事も出来ずに、あたしはただ…黒崎くんの後ろ姿を見つめていた。

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