捧げ物
□通学路リピート
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井上からの思わぬ告白から……互いにオロオロしながら始まったぎこちない交際。
何もかも初めてでリードしてやる事も出来ず。
互いに顔を見合わせては、はにかむ日々。
高校3年にもなって、何やってんだろ?……俺。
【通学路リピート】
「あ、あああのね。い……一緒にか…帰りません…か」
「お……お、おう」
織姫のクラスの方が早くSHRが終わったらしく、織姫は一護の担任が出てきたのを見計らって、一護の席に来た。
「……そっか、もう部活はねぇんだっけ?」
「……うん」
一護の問いに織姫は照れくさそうに頷いた。
「じゃ、じゃあ…い……行くか」
仲間時代には普通に接してたはずなのに、今はもう自分がどんな態度を取っていたのかさえ覚えていない。
だけど、カレカノ歴は余りに浅く織姫はおろか、一護も意外に奥手だったようで……未だにオタオタと中学生のようなお付き合いをしていたりする。
校門を出て、織姫のアパートに向かう途中で一護はハッと思い出した。
「やべっ、井上に借りた参考書…机に置きっぱなしだった」
「え?……あ、待ってるから取って来ていいよ」
「……いや、学校じゃねぇんだ。家の方でさ」
「そうなんだ、じゃあ…黒崎くん家行こう」
織姫はくるりと方向転換をして、一護の家の方に歩く。一護は織姫の後を慌てて追って謝罪した。
「……本当にわりぃ、すっげぇわかりやすかったからさ…朝もう一回勉強してから鞄に入れようと思ってたんだけどさ」
「ううん、お役に立てて光栄です。よかったら日曜日、黒崎くんの参考書見に行かないかな?」
「あ……いいな、それ。いつも図書館で勉強だけだもんな」
2人は笑って空を見上げた。
「なんか、灰色の受験生のはずなんだけどな」
「あはは……あたしも同じ事思っちゃった」
……社会人になって役立つ事のない勉強を頭に詰め込む事も。
人生に関係ない方程式を覚える事も。
受験の為でしかない使えない英語の勉強も。
君と一緒なら何もかもが色づく。
「お互い、受かるといいな」
「うん……頑張ろうね」
一護と織姫はコブシを互いに作って軽くコツンと当てた。
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「ただいまぁ」
「あ……お兄ちゃんおかえり。あれ……織姫ちゃん?」
玄関に一護を出迎えに現われたのはエプロン姿の遊子だった。
「あぁ、ちょっと返すものがあってさ。井上…ちょっと待ってろ」
一護はそう言うと靴を脱いで、2階にある自分の部屋へ上がって行った。
織姫は玄関に座って、遊子と夕飯についておしゃべりをした。
間もなく一護が織姫の参考書を持って降りてきた。
「あった、これ」
一護は織姫に参考書を返すと、しゃがみこんで靴を履く。
「……え?どこか行くの?黒崎くん??」
織姫は首を傾げて一護を見つめた。
一護は疑問を持っている織姫自体を呆れた目で見つめ、立ち上がった。
「……あのなぁ、お前を送るに決まってんだろ?」
一護はそう言うと、遊子に織姫を送る旨を伝え家を出た。
2人は織姫のアパートに向かって歩き出した。