恋愛*長編

□友達以上恋人未満…妹以上?*第3章
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【友達以上恋人未満…妹以上?】
*貴方とあたしの距離*


一護は薄暗いカフェに座っていた。
頼んでいた珈琲はすでに冷たくなっていたが、それすら一護は気付かなかった。
頼みはしたが、一口すら口に含んでいなかったのだ。
ドアの鐘がなるたびに、ビクリと反応をして顔を上げる。
待ち人でないとわかると落胆してまた俯く。

…傷つけちまった。あいつを…。

織姫の無理に笑う顔が頭から離れない。わかっていたがどうしようもなく、気付かないフリをしてしまった。

今頃、たつきが話を聞いているだろうか?あんなとこに置いてきぼりしちまったんだ。
井上が俺の行動そのまんま言ったら、あいつはキレるだろうな…。
だが……言わない…だろうな。むしろ、察しのいいたつきが気付かないはずはないから、呼ばないかもしれない。
我慢すんなって言ったけど、井上は我慢する。…特に俺がらみだと。

もう数えるのも馬鹿らしいくらいのため息をもらし、それでも自分の行動は間違っていないと一人頷く。

「ごめんっ、待った?」

聞き慣れた声に一護は顔を上げると苦笑した。

「いや、俺こそ急に呼んで悪かったな」


****


織姫はとぼとぼと自分のマンションに向かって歩いていた。
たつきには、結局電話出来なかった。

たつきに会えば、すぐに気付かれてしまう。そして迷わず一護を責めるだろう。

…そんな資格なんて…あたしにはないのに…。

『我慢すんな』

一護の優しい命令口調を思い出し、簡単に涙腺が緩み涙となって頬を伝う。

『我慢』じゃないよ…『わがまま』言いたくないだけだよ。

一護は何も言わないが、去年…大学1年の秋頃に彼女がいた事は気付いていた。
秋頃から、一護からの連絡が急に途絶えてしまったのだ。
かと言って全く会わない訳ではなく、高熱にうなされた時には遅くまで看病してくれたり、病院に付き添ってくれたりした。
おそらく、たつきが絡んでるのだろうが…自分を本気で心配してくれる一護に喜びと罪悪感で涙が止まらない夜もあった。

一護からまた連絡をくれるようになったのは今年の春くらいからだ。
家が近い事もあり、2人で出掛けなくなっても顔を合わせるくらいはしていたのに、妙に大人っぽい表情をするようになった一護に胸が苦しくなった事を織姫は覚えていた。

「…そばにいたいよ」

「…あたしを見て欲しいの」

「…彼女の次でいいから…好きだって、言って」

織姫はポツリポツリと言葉を紡ぐ。
本人には決して言えない自分の本当の想い。

…黒崎くんの一番になりたいなんて、そんな贅沢は望んでない。
……違う。本当は望んでる。
あのぶっきらぼうな顔も、あたしを何度も助けてくれたあの逞しい腕も、広い背中も、暖かな色をした髪の一房ですら誰にも渡したくない。

……でもそれは望めない。

ゼロか100しか取れない選択なら、30だけでもあたしに向けてくれる道を選ぶ。
あたしには黒崎くんしかいない。でも黒崎くんはそうじゃない。
他の人に逃げてしまえば、どんなに楽なのかな。
そんな道…選べない事もわかっているけど。

織姫は自分の部屋に帰り着くと、熱いシャワーを浴びて、頬に張り付いてしまった自分の涙を落とした。
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