バトル×長編壱
□遅すぎた…初恋*第1章
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「あ、ねぇっ…あれ、『織姫』じゃない?」
「本当だ!…新しいCMかな?超キレー」
ビルの巨大スクリーンに織姫のアップが写し出され、交差点で信号を待っていた人々は皆、ため息を漏らしスクリーンに釘付けだった。
その場にいたオレンジの髪をした青年もスクリーンを見上げるが、すぐに目を反らすとプレイヤーの音量を上げて赤いランプがついたままの信号機を見つめた。
黒崎一護 22歳
大学4年
後悔先にたたず…をはっきり実感して、心に封をしてから数年経過していた。
【遅すぎた…初恋】
「いっちご〜、こっちだこっち!!」
内装がレトロな居酒屋で、啓吾は入り口にいる一護に向かって手を大きく振った。
一護は啓吾に気付き、若干笑みを浮かべるとそのテーブルに近付いた。
「わりぃ。帰り間際、教授に呼び出されちまってよ」
そう言いながら、ふと同じテーブルにいる複数の見知らぬ男女に目を向ける。
「……知り合いか?」
一護は啓吾に尋ねるが、啓吾が答える前に女が一護に向かって話掛けてきた。
「こんばんわ〜、啓吾のお友達だよね?…今日はよろしくね?」
「……はぁ!?」
見知らぬ女の馴れ馴れしい態度に一護は苛立った。啓吾に視線を向けるが、一護に視線を合わせようとすらしていない。
「おい、啓吾っ!」
「お医者様の卵だって言うから、もっとがり勉くんかと思った!」
「ねぇ、あたしの隣座って」
女が一護の腕に絡ませる。一護はそれを振り払い、啓吾を睨んで言葉を発した。
「てめぇ、騙しやがったな」
一護は今日啓吾から久々に一緒に飲みたいと聞いてここに来たのだ。
最近彼女に振られたと聞いていたので、茶化してやるつもりだった。
「俺、帰るな」
一護はきびすを返して、店を出ようとした。
「一護、わりぃ嘘ついて……でもさ。いい加減、彼女作れよ」
「………」
「なぁ、一護」
「うるせぇよ。そんなの俺の勝手だろ、余計なお世話だ」
一護はそう吐き捨てると振り向きもせずに店を出た。
ネオンに包まれた夜の街を足早に駅に向かって早歩きをした。
途中、大きな看板にあるポスターに目を奪われ一護は立ち竦む。
口紅のポスターらしく、華やかなメイクをした彼女がアップで写されていた。
最近、テレビや雑誌で見ない日はないほどに彼女の姿を目にするようになった。
『織姫』…こと、井上織姫は現在知らない人はいないほどの芸能人になっていた。
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