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□Song for only you
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入学式には辺り一面に咲き誇る桜というのが日本での定番なのだが、実際問題そうそうそんな光景はなかなかどうして拝めないものである。桜の開花時期は大体が三月中、入学式のある4月初旬には春一番も相まってほんどが散ってしまっていて何だか残念感が漂うことの方がほとんどだ。だが、現在黒子テツナがこうして立っている学園内にはそもそも桜の木が植えられていないのか散りかけの木はおろか花びらさえ見当たらない。海の近い学校などでは学校に桜の木が植えられていない所が多いと聞いたことがあるような気がしたが、別段海が近いというわけでもないのに桜の木を見かけないというのも、生粋の日本人である黒子には新鮮に感じられた。代わりというわけではないのだろうが、広すぎるこの学園には緑がたくさんある。今度ちょうどいい読書場所を探してみるのもいいかもしれない。



特殊な学園に入学するということもあって、少し離れた場所で説明を聞きながら書類に記入している両親を確認すると、する事のない、ただ暇なだけの黒子は読書以外の趣味とも言える人間観察を行うことにした。なる程、この学園の特色のせいもあるがどこもかしこもきらきらしい新入生であふれている。勿論自分のような人間もちらほらと見あたるのだが、それでもどこか滲み出るものを感じられた。



薄く化粧を施した少女たちがここへ入学した経緯やらを話していたり、活発そうな男子は将来について熱く語っている。自分たちの将来を明るく考えてそこに向かおうという決意をそこらかしこから感じた。入学式に相応しい光景、黒子は自分のことは省いてそう思った。



勿論黒子とて何の気なしにこのような学園に入学したわけではない。目標も、夢と言えるものだってある。そこへたどり着こうとするやる気も。でなければ志望入学なんてするはずもない。ここはそういう学園だ。ただなんとなくで入れるような場所ではない。



では何故、どこか冷めた気持ちで第三者のような見方をしているのか。それは自分の夢を叶える以外にもここで成し得たいことがあるからだろうか、と黒子はそう自己分析をした。



一筋縄ではいかない人達ばかりなのだけれども、それでも、それでもと思うのだ。



(あの人たちの音楽に、歌うことに対する情熱をもう一度・・・・・・)



薄く柔らかな手のひらをぎゅっと握り混み黒子はその言葉を胸の内で反芻させた。



◇◆◇◆◇



まだ両親の用事は終わらないのだろうかと一度両親の元に向かおうとしたとき、ざわざわとした雰囲気に変わったことに気がついた。多くの生徒や保護者までもがその騒ぎの方を見て色めき立っている。どうせこの学園の目玉の一つである実際のアイドルや作曲家などが教鞭を執る、という触れ込み通りこの感じではアイドルの方だろう、が現れでもしたのだろうと、つられるようにして黒子も騒ぎの元に目をやる。



だが、実際にいたのはアイドルでも作曲家でもなかった。



(な、んで・・・・・・)



どうして、彼らがここに



「おい、あれってキセキだよな!」



「キセキって何?俺知らねえんだけど」



「バッカ、あの有名な帝光劇団の超有名な劇団員だよ!子役のときから歌でもダンスでも何でも大人顔負けっつーバケモン集団だ。そいつ等のこと、キセキの世代って言うんだよ」



「へぇ、おもしれーじゃねーか」



「しっかしなんでここに入学したんだ?全員そろって劇団員辞めたってのは知ってるけどアイツらならそのまま普通に芸能界でやってけるだろうに。アイドルだって目じゃねぇルックスなんだしよ」



どこかから聞こえた話し声の通り、目を向けた視線の先には『キセキの世代』全員が居た。自分が見間違えるなどあり得ない。本人たちだ。



まさか先ほど頭に浮かべた彼らがそろいもそろって現れるとは思ってもみなかった。



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