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□凪いだ海に身を任せ
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体の渇きを一気に満たし、潤していく感覚に、ほう、息をとつく。塩分が含まれるそれは、衣服を着たままのこの状態では、不快になるはずなのに、そんなものは気にもならなかった。

未だかすみがかる意識では、薄く目を開いて辺りを見渡しても、正常に思考が働くことはなく、黒子はゆっくりと視線を動かすだけで、まぶたを閉じた。

もう少しこの懐かしいような心地よさに包まれていたいと、上昇しかけた意識は再び沈み始める。

意識が沈みかけるその間際、不意に黒子は一度だけ祖母に聞いたことのある、亡き祖父と祖母の馴れ初めを思い出した。

(それを聞いた時、僕はなんて思ったんでしたっけ―――)

それは、海に暮らす男と、地上に暮らす女との恋の話―――

(ああ、『人魚姫』みたいって思ったんでした―――)

今思えば、海に暮らしていたのは男ではなく女の方で、地上に住んでいたのは男のほうなのだから、逆じゃないかと幼かった自分をクスリと笑う。

それを最後に、黒子はまた、眠りの海へと意識を潜らせていったのだった―――



『凪いだ海に身を任せ』



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