☆文章おきば☆
□優しい幻
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俺は・・・守れなかった・・・
俺の・・・一番大切だったものを・・・・・
この身体すべてをかけたとしても、けっして取り戻すことの出来ない、
一番・・・大切なものを。
ゴドーは朝焼けの中で目を覚ました。
かつて、己が愛した者の声が聞こえた気がしたのだ。
『・・・・ぎせんぱい』
『・・・・!!!!』
『・・・・クッ』
実のところ、長い、あの永遠とも思える長い眠りから目覚めてからこちら、 彼は何度も自ら死を選ぼうとした。
かつて自分が愛したものはもうこの世には無く、
代わりに残されたのは、愛する者を守れなかった、あまりにも惨めで、まぬけな自分の姿だけだったのだ・・・。
彼が死を選ぶことは簡単だっただろう。
理由は十分すぎるほどあったのだ。
・・・・それでも。 ・・・・それでも、彼が生きるコトを選んだのは・・・
『成歩堂・・龍一・・・また勝訴・・・』
『クッ・・・・
こんな自分にもまだ、やるべきことがあったとは・・・な。』
守れなかった約束。
守れなかった未来。
それならば。
せめて、この目で見届けてみせる・・・。
男が泣
いていいのは・・・・・
全てを終わらせた時・・・だけだ。
そして、運命の、最後の法廷。
・・・俺は、
負けた・・・・のか。
あの一瞬、成歩堂龍一の姿に確かに重なって見えた。
『・・・チヒロ。おまえだったんだな。』
ずっと探していた人が、確かにそこには居た。
俺は、
全てを失ったと思っていた。
あの日から。
・・・でも、
なんのことはねぇ。
・・・一番、大切なものは、まだ、ここにしっかり、残っていたんだな。
おまえが残そうとした、守ろうとした“想い”
・・・なんだ。
ちゃんと、受け継いでくれたやつが、いたんじゃねぇか。
・・・・・。
良かったな。
これで・・・、
俺も・・・・
ゆっくり、休めるな。
ゴドーは、静かに目を閉じた。
今度は、降りしきる朝焼けのなかで。
微笑む、あの人の幻を見たような気がした。