☆文章おきば☆

□あの日からの手紙
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――――はぁ。はぁ。はぁ。


・・・パァン!!


・・・・お父さん?


・・・・・お父さん!

・・・お父さん!!!!!





『・・・・・!!!』


『ク・・。また・・・このユメか・・・。』


幼い頃のあの事件以来、幾度となく私を苦しめ続けるあの悪夢。



幾度となく父を呼ぶ私の声・・・。そして、一発の・・・銃声。



父が殺害されたあの事件は、幼い私からすべてを奪っていった。


尊敬していた父も、そして、幼い頃の夢も・・・。




(―ボクは、お父さんのような立派な弁護士になるのだよ!)



尊敬する父。偉大な父。


自分も当然のように、その後に続いて生きて行くのだと思っていた。


なんのギモンも抱かずに、ただ、真っ直ぐに父の背中だけを見ていた、あの頃。



それなのに・・・・



御剣は後頭部に鈍い痛みを感じる。


幼い日々の記憶に触れようとすると、いつも決まってそうだった。

あの頃の眩しいくらいの自分の純粋さが、今の御剣の総てを拒絶するかのように、うずくのだ。

これは・・・あの頃の自分からの・・・復讐なのか・・。


御剣は鈍い痛みのなかで思
う。


自分自身を皮肉に笑うかのように、僅かに口元を歪ませた。

――疑わしき者はすべて、有罪にする。


幼い日の羨望と、
今自分が立っている位置とのあまりの通さに、御剣は眩暈を覚える。



・・・・それでも。


それでも、自分はこの道以外を、生きる事はできない。


父を失った日から、自分で決めたことだった。


私は・・・戦い続けるしかないのだ。



何のために?誰のために?


そんな事ももう、御剣自身、わからなくなっていた。


ただ、自分はもう一生この悪夢から逃れることはできないのだろう・・・・そう思った。




そういえば、何日か前に、昔の友から手紙が届いていた。


名前はたしか・・・




―――キミは、やっていないのだろう?―――


そうだ。たしか。



アイツは、元気にやっているのだろうか。


今の自分をみたら、一体、キミはどう思うのだろうか・・・。



『・・・トモダチ。』



こんな言葉を口にしたのは、何年ぶりだろう。
御剣は自分でも驚いた。


・・・友達。それも何年も前の友達だ。

(君は、まだ私の事を友達だと・・・)




御剣
は、何年かぶりに自分の感情に触った気がした。

だが・・・




・・・会えない。


・・会えるワケがない。




今の自分は、変わってしまった。

・・・あまりにも。


今の自分は、もうキミ達が知っているあの頃の自分ではないのだ。




そして、私は永遠に一人で戦い続けると決めたのだ・・・。



御剣は静かに立ち上がると、自分の机の引き出しにしまってあった封筒を取り出した。



これは・・・あの日からの手紙なのだ。




もうけして振り返ってはいけない、あの日からの・・・。


御剣はその表情に一層深い皺を刻み込むと、


手にしたその封筒を、一気に破り捨てたのだった。




・・・・



『さようなら・・・だ。』



御剣は、深い闇のなかで、静かに目を閉じた。







完。

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