☆文章おきば☆

□君との距離、僕の憂鬱
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『成歩堂・・・好きだ。』


御剣は組み敷いた自らの友人を見つめながら、そうのたまう。


『むに・・・ふへへへ・・・ミツルギ・・・ボクも、好きだよぉ・・・』



当の本人はありったけの酒を浴びるように飲まされ、いまだに心地の良い 夢のなかをさまよっているようだ。



『・・・・・』

このきもちをキミが知ったら、一体どう
思うのだろうか。



御剣は考えるが、考えてみたところで答えてくれる者がいるはずはなく、今はこのやり場のない自身の熱を持て余すばかりだった。


行き場を失った熱は、自分を解放できる場所を求めて、横たわるその愛しい者へと手を伸ばした。

指先がふれた、刹那


『ふふふ・・・ミツルギ・・・ありがとう。』



幸せそうな寝顔で、想い人はそう呟いた。



御剣は自分のなかにたまっていた熱を一度逃がすように大きく息をつき、
とめかけていた指先で、優しくその頬に触れた。


(まったく。キミは一体どのような夢をみているのか・・・)


私の気も知らないで・・・と一瞬考えた御剣だった。
だが、この想いを、一体この男が知る時など、来るのだろうか?

知らせる事ができ
たとして、本当に自分はそれを望むのだろうか?


胸を締め付け、苦しめるこの想い・・・だが、今のこの二人の関係を壊してしまうとしたら・・・自分は。



『成歩堂・・・キミは一体、どう思う?』



御剣は自嘲とも取れるような複雑な表情を浮かべながら、成歩堂へそう問いかけた。



優しくその額に口づける。


『・・・・好きだ。』



最後にもう一言だけ、そう呟いた。








次の日の朝。


『うう・・・おはよう。御剣。昨日はちょっと飲み過ぎちゃったかな・・・先に寝ちゃって、ゴメンね』


『いや。私は別に構わない。』

御剣は何事もなかったかのような態度で成歩堂を迎えた。

否。確かに自分は何もしてはいない。
あの感情の高ぶりを除いては――――



『でもさぁ、飲み過ぎちゃったからか、なんかヘンな夢みちゃってさぁ・・・』


『・・・!
・・・一体、どのような夢なのだろうか』

まさか、聞かれていたのかもしれない。
御剣は高鳴る鼓動が成歩堂に伝わらないように、入れ立てのコーヒーに口をつけながらさりげなく聞いた。


『それがさぁ、夢にあの警備員のオバちゃんが出てきて、《好き
だ〜!!!》って言いながら抱きついてくるんだよ・・・・。』


『・・・・・!!!』



『・・・御剣、どうかした?』

『い・・・・いや。なんでもない』


ホッとしたような・・・残念なような・・。



しかし、成歩堂の勘違いしている相手がよもやあの警備員のオバちゃんだとは・・・・



御剣は、泣きたいような感謝したいような複雑な気持ちになっていた。



『怖くてさ〜、必死で逃げちまったよ。ハハハ。・・・ま。結局は夢なんだけどね。』


『うム・・・それは、残念だったな。成歩堂。』


御剣はぼんやりした頭で答えた。


『え?なんで残念なんだよ。おまえ、ちゃんと話きいてる??』


『あぁ・・・聞いているとも・・・』



『せめて、もっとステキなお姉さんだったら良かったのになー』


『なんだと・・・・・!』

『え』


『・・・いや、何でもない』


『ハハハ。なんか御剣へんなの』



まだ二日酔いで頭がぼんやりしているのか、成歩堂はそのままフラフラと立ち上がり、洗面所へと顔を洗いに入っていった。



御剣は、もうすっかり冷めてしまったコーヒーへと再び口を付ける。




うム・・・少し、苦いな。』



ぼそり、とそう呟いた。





一体自分のこの想いが報われる時など来るのだろうか・・・。


窓の外。もうすっかり高くなった日差しの中で目を閉じながら、
静かに思う、御剣なのであった。



おわり
 

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