☆文章おきば☆

□綾里真宵のゆううつ
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綾里真宵は考えていた。

成歩堂龍一・・・、自身が助手を務めている法律事務所の所長であり、新米弁護士のこの男。

月末の雑務に追われながら、必死に書類と格闘しているその姿。
その広い背中を見つめながら。




(そういえば、なるほどくんって・・・・オトコのひと。なんだよね。一応。)




『・・・ん?どうしたの真宵ちゃん。
ぼくの方ジロジロ見て。』


『あ、ううん。なんでもない。』


いわれて、真宵はぱっと目を離した。
ついつい見つめすぎていたようだ・・・




(あんまり考えたことなかったけど、これって・・・ひとつ屋根の下ってコトなんだよね。やっぱり。)


改めて考えてみると、これはケッコウすごいことなのではないかと、真宵は思ってみる。


真宵のそだった霊媒師の里では、あまり男性と触れ合う機会はなかった。

あそこにいたらまず考えられなかった事だろう。



(はみちゃんが聞いたらびっくりするだろうな・・・)



『ねぇねぇ、なるほどくん』


真宵はいつもの調子で成歩堂に話掛ける。


『ん?なんだい。』



『こーゆーのって、ドーセーってゆうのかな。』


『・・
・・・はい?』



『だから、今ワタシとなるほどくんが一緒にいるでしょ。』

『うん。』


『ドーセーって、ゆうんでしょ。こういうの。』



『え・・・・ええぇぇ!!!!!』

成歩堂は余りに驚いて危うく手にしていた重要な資料を破きそうになった。


『なにいってるんだよ、真宵ちゃん!



『え、違うの?』


『違うもなにも、真宵ちゃんはこの事務所の助手だろ?』


『うん。そうだね。』


『そーゆう場合は・・・ホレ。そーゆうのとは違うんだよ!』


『うーん。そうなの?』


『そうなの!
第一、真宵ちゃんはココに住んでるワケじゃないだろう?』


『あ、そっか。』


『泊まり込むことはあっても、ぼくだって家は別にあるワケだし・・・だから、全然違うんだよ。そーゆうとは!』



『ちぇ!つまんないの!』



『マッタク・・・。大体、どこで覚えて来たんだよ。そんな言葉。』


『え?ああ、この本に載ってたんだよ!ホラ。』



真宵が差し出したのは、一冊の雑誌だった。


『なになに・・・・《大人気俳優、同棲!?不倫疑惑》・・・・・』

『・・・こうゆうの読むんだね。真宵ちゃん。』

『うん。チョットはコノヘンのこと、勉強しようと思って!!』


『(いったいどの辺のことなんだ・・・(汗)』




『《フリン》に《ドーセー!》この2つを使いこなせるように、今ガンバってるトコロなの!!』

『そうなんだ・・・。まぁがんばってね。』


ニコニコととても場違いな単語を発している真宵に、成歩堂はヤレヤレ、と肩をすくめ書類に向き直った。




・・・なんてね。
と、真宵はココロの中でちょっぴり舌を出した。

同棲の意味くらい、真宵だって知っている・・・つもりだ。


たしか、アイジョーとチヂョーのもつれ。とかそうゆう類のヤツだ。



ただ、真宵はなんとなくそのコトバを口にして、成歩堂の反応を見てみたかったのだった。



今だにたよりなさげに背中を丸めて、大量の書類と格闘している、この男、の。



いつもはそれこそ頼りない様に見えるのに、一旦法廷に立つと、見違えるように頼もしく見える。



自分を助けてくれた時だってそうだった。
完全に参っていた自分を、新人なりにもはげまし、支え、見事に無実を証明してみせてくれた。



真宵は不思議だったのだ。



自分がこの男に感じて
いる、この感情が一体なんなのか。



でも、今はまだその質問に答えは出せそうになかった。



とりあえず、日々事務所の仕事に奔走しているこの大きな弟を、自分が支えていかなくてはならないのだから。




『あ!なるほどくん、コーヒーでもいれよっか!』


真宵は珍しく気がきいた風に、ぴょんとソファーから跳ね立った。


『ああ。ありがとう、真宵ちゃん。』




ニッコリとわらうその屈託のない男の笑顔に、

安らぎと少しの不思議な感情を抱えながら、彼女はもうすこしこの事務所の助手を務めることになるのだが・・・


ここから先は、また別のお話。



☆オシマイ☆
 

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