Fate

□ただいま幸福中
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「切花・・・俺、この10年で10キロも体重が増えたんだけど・・・」

「良かったじゃないか。ということは・・・60キロか」

「うん。
・・・食事が多少出来るようになってから
一揆に5キロくらい増えて驚いたけど、
ここまで増えるとは思わなかったよ」

雁夜はふぅとため息をついた。

「まぁ・・・いいじゃないか
子供達に報告してみたらどうだい?
喜ぶんじゃないか?
10年間、雁夜を太らそうと頑張っていたんだからね」

切花はクスクス笑いながら読んでいた新聞を軽く折りたたみ、
自分が座り込んでいる座布団の横に置くと、机の上の熱いお茶を啜った。

「そういえば、桜ちゃんや士郎君は?」

「二人は部活。椿と志保なら友達と公園で遊んでくるってさ」

一息で答えてから、切花はまたお茶をゆっくり啜る。

「・・・アユは?」

「アユはウェイターのバイトだって朝から出て行っただろ?」

切花は湯飲みの茶を揺らしながら「聞いていなかったのか?」と尋ね、また茶を飲み込んだ。

「正直、朝はボーッとしてて何も憶えてないんだ」

「低血圧だったっけか・・・雁夜は」

「うーん、正直なところ判らないや
聖杯戦争中は寝る間もあまりなかったからなぁ・・・多分それも相俟ってかな」

「ふむ、成る程」

切花は空になった湯飲みを机の上に置くと、雁夜を静かに見つめた。

「・・・なんだい?」

雁夜は目を忙しなく動かしながら、居心地悪そうに身体をモソモソ動かす。

切花は「いや・・・なんだ」と照れたように呟いて、頬を掻いた。

「散歩にでも出かけないか?
途中に、アイリやイリヤ、舞弥の顔でも久し振りに見てこないかい?」

「いいね、散歩
俺にとっていい運動になるよ」

ニヘラッと笑う雁夜の顔をみてホッとした切花は立ち上がると、
雁夜の元へ行き、手を差し出した。

「どうぞ」

切花は優しく微笑みかけた。
雁夜は笑顔の中に照れくささを見え隠れしながら手を受け取り、立ち上がった。



「さて、昼はどこかで食べてこようか
夕方までに帰ってきたら丁度全員帰ってくる頃だろうからね」

玄関で靴を履きながら切花はそう言った。

「なぁ切花、どこでもいいから本屋に寄りたいんだけど」

「構わないよ」

「ありがとう」

「いえいえ」

二人は玄関に鍵を閉めると、ゆっくりと歩き始めた。
それは、左半身に麻痺を残した雁夜の足取りに合わせたものだった。

切花は何となく、雁夜の左手を握って歩いていた。
いい年した大人が手を繋いで歩くというのはなんとも羞恥心を誘うものだったが、
切花と雁夜はただただ当たり前の日常とその幸せを噛み締めていた。

本当なら手に入れることなど出来なかった幸せ。
些細なことがきっかけで出会った二人が一緒になるなどと誰が思ったことだろう。
きっとこれは神のお導き、いや偶然、又は必然。運命だったのだろう。

神など信じぬ無神論者の切花と雁夜はお互いに目が合うと、照れくさそうにニコッと笑い合ったのだった。





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