玩具の奴隷
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「…ところでエイミー、オマエ戦えんのか?」
すべてはその一言から始まった。
ここは海のど真ん中、朝食堂に行くとサッチさんお手製の美味しそうな朝食が振舞われる。
ここ、モビー号での食事形式は基本的にバイキング状態なのだが、サッチさんはわざわざ今日のオススメと自分の作った何品かを教えてくれた。
それはまさに絶品だった。
「うめぇかエイミー?」
「こ…こんな美味しいもの食べたことないです…!」
「かーっ!そりゃ嬉しいねぇ‼」
じゃ戻るわ、とサッチさんは満足気に厨房へと戻る。
周りを見渡すと、相変わらずエースさんは見事な食いっぷり。
目が合うと口に物を含んだまま大声で叫び手招きするエースさん。
全くなにを言っているのかわからなかったが呼んでいるのだろうと隣の席に足を運ぶ。
「エ、エースさん、おはようございます」
「おふほおごっくん…エイミー!」
今日の飯もうめぇな!とまたひたすら食べ続ける彼。
…何故呼んだのだろうと考えていると、突然目の前の人物がガシャンという音を立てて食べかけの食べ物に豪快に頭を突っ込んだ。
「エ…エースさん?」
フォークは片手にしっかりと握られたまま動く様子がない彼を見て隣の船員さんに「死んじゃいました‼」と焦ったように立ち上がるとみんなに笑われた。
なんでもいつものことで、彼はというと寝ているだけらしい…食べながら。
「は…寝てた」
と起きるとまた食べ続ける彼。
…なんだかなぁ。
そしてそろそろ…と立ち上がる。
「なんだエイミー、もう行くのか?」
「はい、私も船に乗るからには何かしないと…マルコさんのところに行って聞いてみようかと思ったんですが」
「ふ〜ん…そういや隊の所属もまだ決まってねーもんな。ところでエイミー、オマエ戦えんのか?」
「お…恐らく人並みには」
…それがなんでこんな状況に。
じゃあ朝食後の運動だ!とエースさんに手を引かれ甲板まで連れて行かれる。
彼はやけにはしゃいでいるようで、途中ですれ違う人たちに決闘だぞ決闘ー!と言いふらすもんだから周りの人達も面白がって何故かギャラリーが大変なことに。
「…あのー、本当にやるんですか?」
軽く手合わせしよーぜ!なんて言うから承諾したものの、これのどこが軽くなんだ。
「や…やりずらくてしょうがないんですが」
「いいじゃねーか、この方が燃えんだろ?じゃあ行くぜ」
始め!と勝手にスタートを切り出しダッシュで拳を振ってくるエースさん。
私けが人なんですが…と思いつつ、そんなのも気にしない全力のエースさんの拳をいとも簡単に避けていくエイミー。
その2人のやりとりにギャラリーはわっと盛り上がる。
もちろんこんな騒ぎに隊長達も気付かないわけはなく「これはなんの騒ぎだい?」とずいずい前に入ってくる。
マルコ、サッチ、イゾウ、ハルタが勢揃いで目の前の光景を目の当たりにすると全員が目を見開いた。
「オイ!なんであのバカは怪我人とやりあってんだよい‼」
なんでも決闘らしいですぜい、と横の船員は教えてくれたがサッチもイゾウもやれやれと息を吐いた。
ハルタはピュウっと口笛を鳴らし楽しんでいるように見えたが、マルコは違った。
すぐに止めようとしたのだが。
「エースさん、なかなか速いですけどまだ一発も入ってませんよ」
「おー、言うじゃねぇかエイミー。じゃあ本気で行かせてもらうぞ。おめぇもいい加減本気出せ!」
じゃあ遠慮なく、と言ったエイミーは初めて自分から攻撃を仕掛け、しかもそれが見事にヒット。
ロギア系のエースに蹴りをかましたエイミーに周囲は大盛り上がり。
そんな戦いっぷりを見て、マルコは止めに入るタイミングを完全に逃してしまった。
「いってー…今のはきいたぜエイミー。んじゃあここからは超本気で行くぜ‼」
エースはそう言うと「火拳!」と拳に炎を纏い始めるのでこれには周囲も焦り出す。
迷わず「エース!」と隊長らが止めに入ろうとするが時すでに遅し。
エースは走り出し、もうエイミーの前まできて殴り掛かろうとしていたのだ。
誰もがやっちまったよと項垂れたが、次の瞬間ビュオっと大きな風が吹いてエースが壁まで吹き飛ばされた。
がん!と勢いよく壁に頭をぶつけると「いってぇ‼‼」と思わず声を上げる。
何が起こったのか、と周囲は首を傾げたままだ。
「す、すみません、危険と判断したので」
大丈夫ですか?と声を掛けるとまだまだこれからだ、とエースは立ち上がって尚も向かおうとするので流石にマルコが止めに入った。
「エース、そこまでだ。やりすぎだよい」
そう言われるとエースさんはちぇっと口先をとがらせて悔しそうに地を蹴った。