玩具の奴隷
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親父、入るよい
その一言でビリビリと放たれる殺気に近いようなもの。
それを感じながら恐る恐る足を踏み入れたそこには、おそらく隊長さんらであろう。
ずらりと左右に分かれてこちらに視線を向けていた。
そして、その中心には自身の何倍もの大きさがある大柄な…間違いなく"白ひげ"がそこにいた。
唖然としている中、この沈黙を最初に破ったのはマルコさんだった。
「親父、連れてきたよい」
「グラララ、ご苦労マルコ。そんで、オメェが"フード野郎"か」
「!」
一気に視線が向けられ、たらりと汗が流れる。
緊張でその場に立ちすくむ自身を一度落ち着かせ、私はそっと口を開いた。
「…初めまして、あの…エドワード・ニューゲードさんでお間違いないですか?」
そう尋ねると、目の前の人物はグラララと大きく笑う。
「本名を呼ばれるなんざぁ久々だ。…いかにも、オメェさんの目の前にいるのが"エドワード・ニューゲート"だぜフード野郎」
「っ…」
やっと…
やっと会えた…
そう思うと、自然と涙が目一杯に溜まる。
何とか溢れるのをおさえてフードで顔を隠すように俯き、本人だと安心した後にゆっくりと本題を切り出した。
「ニューゲートさん、12年前…私はある人物からこれを貴方に渡してほしいと言付かりました」
目の前人物はじっと私の目を見て聞く。
自身のポケットからある物を取り出そうと手を入れようとするだけで、隊長さん達の強まる殺気がわかる。
些細な行動にも気を付けなければ、と思い直して続けた。
「セイクリッド・ローラという人物はご存知ですか」
「‼…グラララ、そりゃあオメェ、懐かしい名前が聞けたもんだ」
隊長達が?マークを浮かべる中、1番隊隊長だけは目を見開き、食い入るように次の言葉を待っていた。
「…約12年前、海賊達は私と彼女のいた街を襲いました。目的はおそらく"人攫い"…それにより島の半数はやられ、彼女もまた例外ではなく身を犠牲にしました。まだ小さな私を海賊の手から逃すために」
「……」
「そして逃れる前にこれを受け取りました。いつか私が無事に生きて、自由に世界を渡り歩くことができる日がきたら」
"この手紙を渡して"とーーー
「…幼い私は、その手紙を側の大きな樹の下に隠しました。いつかまた、戻ってこようとこの地に約束して」
その手には小さな缶が握られており、そのまますっと手を前に出す。
白ひげさんはそれを見つめると立ち上がる。
「…オメェら、一旦ここから出て行けぇ」
「「「‼‼」」」
「なっ…親父‼」
それは聞けねぇ!と隊長達が次々と声を上げる。
それもそうだ。
そもそも彼らは私が白ひげさんの首を狙っていると思っているのだ。
「ごちゃごちゃうるせぇ息子どもだぁオメーらはったくよォ。親父の命令が聞けねぇってのか」
「けどよぉ親父ィ、」
「俺が残るよい」
「「「!」」」
いいだろ親父、とマルコさんが言うと、親父は少し考えて頷いた。
それなら…と隊長達はずらずらと部屋を出て行く。
「(がんばれよ)」
「!」
最後に出て行った…確かエースさん。
肩をポンと叩かれ、もう一度呼吸を整える。
パタリとドアが締まり、あんなに密集していた部屋には白ひげさん、マルコさん、私の3人だけになったはずなのに緊張感は増すばかりだ。
そんな中、白ひげさんは何がおかしいのかまたグラララと笑い出し、ようやく缶を受け取りそのままゆっくりと開けた。
ボロボロに汚れた、紙切れが二枚。
そのまま無言で紙を開いて読んでいく大柄な男を、マルコさんもただ見つめるだけ。
2分、…3分程だろうか。
読み終えたのか、白ひげさんはグラララっとまた笑い、一瞬だけ涙を流したのを私もマルコさんも見逃さなかった。
「おめぇ、名はなんていう」
「っ、…エイミー」
「フルネームは」
「………………エイミー」
「…そうかい」
言いたくないのか、それとも本当にわからないのか。
白ひげにとって、そんなことはどうでも良かった。
「エイミーおめぇ戦闘経験は」
「?す、少しだけ…」
「物書きはできるか」
「いえ…あまり」
「そうか。おめぇ、オレの息子になるか」