玩具の奴隷

□◉03
4ページ/4ページ




「ん…」

朝…?
頭がズキリとし、昨日のことを思い出す。
みんなが寝たあとに確かマルコさんと甲板に出て、それから…と目をこすりながら思い返すと、思わずぎょっと目を見開く。

目の前にはすーすー寝息を立てる男性が。
上半身裸で、その厚い胸板には白ひげ海賊団のマーク。
間違いなく、1番隊隊長の彼だった。


「あの、マルコさん、」

「すー…すー…」

それから何度か声を掛けたが起きる気配がなく、これは駄目だと1人起き上がろうとしても後ろに回されている腕が邪魔でなかなか出られない。
それでもとぐいっと腕を避けようとするとがばりとまた囲まれ、先ほどよりも深刻な状況に。

諦めかけたとき、そこへガチャリと扉が開く。


「マルコ、出航の件で親父が…」

「!」

所用で訪ねたイゾウとバッチリ目が合う。
5秒ほど時が止まるとはっとして「邪魔してすまない」と去っていこうとするイゾウさんを私は必死に引き止めた。








「いやぁ悪いねいエイミー」

ふあぁと欠伸をかきながら頭をボリボリかく呑気なマルコさん。
こっちの気も知らないで…と内心思う。
びっくりしたーとイゾウさんがどういう経緯で?と聞くと、マルコさんは何でもないように答えた。
何でも甲板で寝てしまった私を寝かせようとしたのだが、昨日与えた物置部屋だとまたナースにぎゃーぎゃー言われることを恐れたマルコさんは仕方なく自分のベットに寝かせたらしい。
マルコさんは床で寝ていた、と言うのだが…


「いつの間にかベットの上だったねい」

「それが昨日サッチをどついたヤツが言うことかい」

「はは…」

「悪いなエイミー」


気にしないで下さいと告げると、イゾウさんは用件だけ伝えて部屋を出て行った。
それにつられてマルコさんも部屋を出る準備をしている。
親父の部屋に行くらしい。
おめぇは?と聞かれたので、私はフィオさんのところへ…と言うと、気をつけろよいと頭をポンポンと軽くたたいてマルコさんと別れた。





「…マルコ」

「!」

しばらく廊下を進むと、先ほど部屋を出て行ったばかりのイゾウがそこにいた。


「お前さんにしては珍しい失態だね。普段はあんなことしないだろう?」

マルコは比較的女性を好まないタイプだ。
全く興味がないというわけではなく、それなりに場数は踏んできてはいるだろうが、基本的にはサッチとは正反対だった。
その為か、イゾウは疑問に思いマルコを待ち伏せていたのだ。


「まぁ…なんだ。ほんとにさっきいった通りだよい。気付いたらああなってた…オレもまだまだってことだねい」

「ふ〜ん…それなら良かったよ。柄にもなく手ェ出してんのかと」

そう聞いて「んなわけあるか」と蹴りを入れると「そんな態度とっていいの?言い広めちゃうよ?ん?」と黒い笑みが帰ってきたので、それ以上何も言えずに終わるマルコなのであった。






ブオオオオオオンとモビーが鳴く。
ついに出航なのだ、とエイミーは少しだけそわそわする。


「いい街ね」

ふふっと笑うフィオさんに「はい」と窓を見つめながら答える。
白ひげのナワバリになってから…私がこの街を出て行ってからもう随分とこの街も変わった。
よそ者には冷たいが、街の人同士の暖かさは本物だった。

本当であればこの街で育つはずだった。
違う人生もあっただろう。
それでも、私はこの道を選んだ。



「(…お父さんとともに)」


さよなら、私の故郷。


next〆◉04
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ