そこから始まる恋もある!【本編完結】

□黒猫とメイド様。【完】
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「――恭弥」


もういっそ不気味と形容したいようなにこにこ顔で早坂が俺を呼んでいる。

ものすごい返事をしたくない。
が、しなかったらしなかった分、不利になるのは確実に俺だ。


「―――――なんだよ」

「恭弥くん、俺だって別に何も無理強いしたいわけじゃないんだよ」


どっかのあほな少女漫画にでてきそうなセリフを真顔で口にした早坂に心底イラッときた。
分かってる。絶対こいつ言ってみたかっただけだ。


「……っつかならいいだろ。なんでそんなもんしなきゃなんねぇの俺が」


……瞬間、早坂が顔をひきつらせた。


「お、お前ねぇ……」

「なんだよ」

「俺よりは全然マシでしょうよ、なにがそんな嫌なの、何が」


そんな呆れたような溜息つかれたって、嫌なもんは嫌だ。冗談じゃない。
こうなんというか俺の微妙なプライドにかけて。


「―――――何が嫌って嫌だっつーの! 冗談じゃねぇし、お前と一緒にすんな無理! とにかく絶対俺は無理」

「お前、俺が好きでこれ着てると思ってんの!? ちょっとさすがにそこまで変な趣味持ってないからね、俺は!」

「お前その台詞一回全身鏡で自分の姿確認してから口にしろ!」


人差し指を突き付けて喚く。
と、早坂がかなり珍しいことに苦虫をかみつぶしたような顔をした。

そしてだってしょうがないじゃん……! と唸って俺に突き出した。

何をって、あれだ。もふもふの猫耳カチューシャだ。


「って言うか恭弥のせいでもあるんだからね!? そこはお前分かってるよね!?」

「…………………………そこは否定しねぇけど!」


写真部の文化祭何する会議をさぼったのは、うっかり俺も忘れてて寝こけてたからだけど! 

だからってそれがこんなあほなことに発展するなんて思わねぇじゃねぇか。



「だからってなんでお前がメイド服で俺が猫耳とか、んな訳分からん恰好で接客しなきゃなんねんだ……!」


俺の痛恨の叫びは、俺だって知るかという最もな早坂のどこか悟った声で切り捨てられた。

自分が悪いってのが分かってる分、怒りのやり場がないのが嫌だ。


………つまりなんだ、これを付けないと駄目なわけですか、そうですか。

無駄に手触りのいい猫耳を触りつつ、俺は深いため息をついたのだった。







【黒猫とメイド様】





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