灰紫の語り部
□年の瀬
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「ネズミ」
「うん?」
「今年ももうじき終わりだね」
「だな」
「どうしてかな」
「何が?」
「年の瀬って寂しくなる」
「そうか?」
「うん。ネズミはならない?」
「ならないな。また新しい年が始まるわけだし」
「そっか…そうだね」
「あんたも変な感傷に浸っていないで、新年早々死んだりしないように気を引き締めるんだな」
「うん、そうする」
「いい子だ。……けど、初めてだな」
「え?何が?」
「あんたと年を越すのが」
「……っ」
「ふふ、真っ赤」
「う、うるさい」
「何なら年が明ける瞬間、キスしてやろうか?」
「…かっ、からかうなよ」
「からかってないさ。おれは大真面目に言ってる。そうそういないぜ、キスしながら年を越すやつらなんて。大概は馬鹿みたいにカウントダウンしてるだろ」
「確かに」
「どうする?」
「え?どうって…」
「おれは別に、年が変わる瞬間なんかに頓着しないけど。あんたが特別なことしたいって言うなら、してやらないこともない」
「…きみって、ほんとうに時々、嫌なやつになるね」
「あ、そう。そんな嫌なやつと年越しなんてできませんってか」
「そ、そんなわけ…!」
「そんなわけ?」
「……っ」
「何だよ。はっきり言ってくれないと分からないなぁ」
「…いじわる」
「人聞きの悪いこと言うな。で?紫苑はどうしたいって?」
「………たい」
「何だって?聞こえない」
「きっ、きみと新年を迎えたい!」
「どんなふうに?」
「…え…いや、その……」
「もうあと三分で今年が終わっちまうぜ」
「え!?ほ、ほんとだ」
「はい、リクエストは締め切りました」
「え……」
「ほら、ここに座って」
「う、うん…」
「なぁ、紫苑」
「ん?」
「今年を、あんたと一緒に過ごせてよかった」
「……ぼくも、きみと過ごせて幸せだった」
「紫苑、目ぇ閉じて」
「え?………っ」
3…
2…
1…
続く