灰紫の語り部


□カケヒキ
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ネズミが手を差し出す。

ほぼ反射的に、ぼくはその手を握っていた。

「何してるんだ、あんた」

「え?」

「親を決めるんだろう」

「あっ」

気づき、慌てて手を離す。

ネズミは、親決めのじゃんけんをしようとしたのだ。

恥ずかしい。

あまりの恥ずかしさに、一瞬にして全身が火照った。

ネズミが大きくため息をつく。

「どこまで天然なんだよ、あんたは」

「ご、ごめん…」

「でも」

ふいに、ネズミが笑顔になる。

「ほんと、見ていて飽きない。あんたって、おもしろいよ」

「うぅ…」

恥ずかしい。

こんなことでは、いつまでも対等になどなれない。

ぼくは拳を握りしめた。

「ネズミ、じゃんけんだ」

「え?あぁ…」

「じゃーん、けーん」

ぽん、と言いながら、ぼくはパーを出した。

ネズミはチョキ。

ネズミが親だ。

「じゃあ、おれが引くんだよな」

「うん」

ぼくは扇状に広げたトランプを差し出した。

ネズミの白くなめらかな手が、六枚のトランプの上を行ったり来たりする。

ぼくは、ポーカーフェイスを装った。





*****





二人でババ抜きなんて、確実にどちらがジョーカーを持っているか分かってしまうじゃないか。

いや、もしかしたらドが付くほど天然な紫苑のことだから、そんな単純なことにも気が付いていないんじゃないかと思った。

ともかく、おれはジョーカーを持っていない。

つまり、ジョーカーは紫苑の手元にある。

左から順にトランプの上に手をかざしながら、紫苑の目を見つめる。



一枚目…これは違うな。

二枚目…これも違う。

三枚目…ん?

ちらりと、隣のカードを見たな。

四枚目…凝視。

五枚目…瞬き。

六枚目…違うな。



なるほど、四枚目がジョーカーか。

ジョーカー以外なら、とりあえず引けば揃う。

おれは三枚目のカードを引いた。

スペードの6。

ちっ、NO.6かよ。

自分の手札のダイヤの6と合わせて、投げ捨てる。

紫苑は、あからさまに残念そうな顔をした。

おいおい、分かりやすいにもほどがあるだろう。




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