灰紫の語り部
□七夕
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市場で買ったパンの包み紙の切れ端で、粗末ではあるが短冊を作った。
一枚、イヌカシに渡す。
「おいおい、紫苑…この西ブロックには七夕だからって星に祈るようなやつはいないぜ」
イヌカシはひらひらと短冊を振り、大仰にため息をついてみせた。
「いいじゃないか。願うのは自由だろ」
ぼくはイヌカシにペンを握らせ、書くようにと促した。
イヌカシは軽く肩をすくめ、顎を触りながら思案顔になる。
数分ののち、得意気な表情を浮かべながら、短冊を差し出してきた。
─・─・─・─・─
仕事帰りに、力河さんの所へ寄ってみた。
力河さんは酒を飲みながら、ソファにだらしなく腰かけていた。
「短冊?紫苑が作ったのか」
「はい、粗末なものですけど」
「いやいや、気持ちだけで充分だ。みんなの願い事を叶えたいという気持ちだけでな」
力河さんがぼくの肩を叩いた。
酒に酔っているせいか、とても痛い。
力河さんは素早くペンを取り出し、短冊に書き込んでいった。
「よし、書けた。どこかに飾るのか?」
「ネズミの住み処の傍の木に」
「おぉ、そうか。きっと叶うだろう、紫苑が作った短冊だからな」
力河さんは豪快に笑った。