灰紫の語り部


□カケヒキ
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ぼくがネズミと暮らし始めてから二週間くらい経った頃、ネズミが拾ってきたものがある。

「ほら」

ふいに放り投げられたものを両手で受け止め、ぼくはしげしげと眺めた。

ぶ厚めの紙の束が、紐でぐるぐると巻かれている。

紐を解いて裏返すと、それには四種類のマークと数字が描かれていた。

「これは…トランプ?」

「訊かないと分からないのか」

「いや、分かるけど…こんなもの、どうしたんだ?」

「拾った」

ネズミがぶっきらぼうに答える。

「暇つぶしぐらいにはなるだろう」

「暇…あんまりないけどな」

「は?あんた働いてもいないくせに、やることあるのかよ」

「朗読したり…それに、きみを見ていたら暇なんかにならないよ」

ネズミが一瞬、目を見開いた。

何度か瞬き、大仰に肩をすくめる。

「暢気なおぼっちゃんだ」

「あ、ぼくのことおぼっちゃんって言わないようにするんじゃなかったのか」

「前言撤回。あんたはやっぱりおぼっちゃんだ」

ネズミが笑う。

青い空に包まれたような気がした。

手の中のトランプを握りしめてみる。

束になった紙は意外と固く、丈夫だった。

「ネズミ」

「うん?」

「きみは、トランプの遊び方を知っているのか?」

「多少はな。遊んだことはないが」

「ババ抜きしよう」

「は?」

「ババ抜き。知ってる?」

「あぁ、まぁ…ルールくらいは」

「じゃあ、はい」

トランプを繰り、半分を手渡す。

二人でやったらつまらなくないか?と眉を顰めながらも、ネズミは受け取った。

扇のように優雅にトランプを開き、二枚揃っている組を抜き出していく。

「見とれすぎ」

ネズミがトランプの扇で、ぼくの頭を軽く叩いた。

顔が熱くなる。

ぼくも慌てて揃った組を抜き出す。

しかし、組になっているものがあまりにも少なく、多くのトランプが手元に残ってしまった。

ネズミが含み笑いを洩らす。

ネズミの手元には、五枚しかトランプが残っていなかった。

「ちょっと、きみ、なんでそんなに少ないんだよ」

「知るかよ。ふふ、あんたこそ、どういう運の悪さだよ」

肩を揺らしながら、ネズミはぼくの手からトランプを引ったくり、自身のトランプと合わせて繰り始めた。

そして、半分をぼくに手渡す。

今度は、ぼくの手元に六枚、ネズミの手元に五枚が残った。




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