創造の語り部
□仮面
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私は、物心ついたときから家族のことが苦手だった。
己の体裁ばかり気にして、口を開けば自慢話か、愚痴か、陰口か、他人の噂話。
自分の非は一切認めず、責任転嫁し、都合よく記憶を変え、主張する。
末っ子の私は、恰好の餌食だった。
私が前もって言っておいたことを親が忘れていたとき、それは私が言っていなかったことにされた。
逆に、絶対に親が言い忘れていただろうことは、私が聞いていなかったことにされた。
小学校低学年のとき、クラスメイトと揉めたことがあり、双方の保護者と先生を交えた話し合いに発展したことがあるのだが、私の親は善良な人間を装って頭を下げ、私の主張など聞かずに叱り、良い親を演じた。
そのときに私は、言葉というものの無力さを知った。
どんなに言葉を紡いでも伝わらないのだ、と。
血が繋がっているとか、そんなことは私にとって大したことではなく、家族だろうと他人は他人だと、幼い頃からシビアに考えていた。
そんな私もやはり怒られるのは嫌だったし、自分で衣食住を確保することも出来ない身分であることは重々承知だったから、物事を円滑に進めるために家では演技をして過ごした。
特に好きでもない食べ物を美味しいと言い、面白くもない話に笑い、普通の、健全な子供のふりをして生きてきた。
家族なのだから、思っている何でもを言っていいのよ、と母親がいつか私に言った。
まだ今ほど心の冷めきっていなかった私は、その甘い言葉を信じて将来の夢を語った。
「あんたには無理よ。そんな才能ないんだから」
その一言で、私の夢は終わらされた。
やってみなければ分からないと説得しても無駄だった。
───偽善者。
この単語が私の頭に響いた。
そのときから、私は親を憎むようになった。
子は、親の勝手な都合で生まれてくる。
私もそうだ。
自ら望んで生まれてきたわけではないのに、望む生き方はさせてもらえない。
私は私の人生を生きることを許されないのか。
お前のための人生だと言うのか。
次第に私の心は憎しみに支配されていく。
姿を見ただけで吐き気がするほど、声を聞くだけで頭痛がするほど、触れられただけで全身が泡立つほど憎く、おぞましかった。
殺してやろうかと本気で考えたこともあった。
しかし、こんな穢らわしい人間の血で自分の手を汚したくなかった。
社会人になって家を出るまでの辛抱だと自分を励まし、今まで通りに演技をしながら毎日をやり過ごした。