短編・企画・過去拍手

□過去拍手其の十三
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散り始めた桜の木の上で、大きな欠伸を漏らす。
「暇だなぁ…」
昔はこの桜の下で、子供達がよく遊んでいたものだ。
寺が廃れてからは、人どころか猫一匹来なくなってしまったが。

静かなものだ。
静か過ぎて、毎日暇で暇で仕方がない。
まぁこの山を下った所にある町では、車や電車などといった物の雑音が、喧しく響いているのだが。

「はぁ、はぁ…」
…ん?何だ?
人の気配がするぞ。
桜の花の隙間から、様子を伺う。

「……ここまで来れば、もう…」
「おい」
「っ!?」
私の目が捉えたのは、所々に傷を負った人の子。
そいつは私の方を見ると、顔を強張らせた。

「…お前、私が見えるのか?」
久々の来客につい声を掛けてしまったが、人の子が私を目にする事が出来るなど想定外だ。
大体、私の事を見れる人間なんて、この寺に住む住職ぐらい。
…今はもう居ないのだが。

その人の子は暫く固まっていたが、急に我に帰ると、私の質問に答えず走り出してしまった。
「なっ!?待て!」
私は木から飛び降りると、走るこやつの腕を引っ掴む。

「止めろ!離せっ…!」
「離したら逃げるだろうが。
いいから、話を聞け」
だが尚も離せ離せと喚くこいつに、私はどうしたものかと頭を悩ませた。
と、そこへ―――

「見つけたぞ、夏目…」
名前もよく知らん低級妖怪が現れた。
夏目とはおそらく、この人の子の名だろうか。

夏目はそいつを見ると大きく目を見開き、私への抵抗を強くする。
私はその様子を見て大きく息を吸うと、
「私の客に手を出そうなど、恐れ知らずな。
喰われたくないのなら、さっさと私の山から去れ…!」
と高らかに宣言した。
それを聞いた低級も救いようのない馬鹿ではないらしく、小さく舌打ちをするとどこかへ消えていった。

「……ありがとう」
いつの間にか大人しくなった夏目が言う。
「フン…。
丁度暇だったんだ、少し付き合え」
私はそう言うと、さっきの寺へ引き返すべく歩みを進める。
夏目は少したじろいでいたが、私の後に小走りで付いてきた。

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