短編・企画・過去拍手

□雨
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「あー…降ってきちゃったじゃん」
買い物帰り、と言っても、パシリに使わされた帰り。
大量のマヨネーズを両手に持って曇天の下を歩いていると、急に雨が降りだした。

「流石にこんなに荷物持って屯所まで走ったりなんかしたら、ずぶ濡れになっちゃうよね」
そんな事を呟いている間にも、雨は勢いを増す。
私は近くの家の軒下に入って、雨宿りをする事にした。

どうせすぐに止むだろうと思っていた雨は、時間が経つにつれ、激しくなっていく。
雨が降る前は通りを歩いている人も居たのだが、今では気配すら感じさせない。

絶え間なく聞こえる雨音だけが、閑散とした通りに響く。
これだけ静かだと、つい色々な事を考えてしまう。
皆は何をしているんだろうと思ったり、トシに対する不満を募らせたり、誰か迎えに来てくれればいいのにと思ったり、トシに対する不満を募らせたり……。

大体あれは、完全な職権乱用だ。

「マヨが無くなったから買ってこい。
買ってこなければ、給料カットだからな」
これがつい三十分前、トシに命令された(脅された?)時の台詞。
そんな事を言われた私は、
どんだけマヨネーズLOVEなんだよ。つーか何であたしなんだよ。そんなの山崎の仕事だろーが。何?あたし何かした?それともただの嫌がらせですかコノヤロー。もう死ねよ土方。マヨで溺れて死ねよ土方。
とか思ったが、口には出さなかった。
…だって、口に出したりなんかしたら、給料カット以上の事になりそうだもん。

こんな事を考えている間にも、厚い雲から雨が降り続いている。
さっきよりは少し弱くなったが、この天気で屯所に向かっても結論は変わらない。
どうしようかなーと考えていると、バシャバシャという音が近付いて来るのに気付いた。
驚いて見てみると、傘を持った人がこちらに向かって走っている。

初めはあの人も大変だな、と人事のように見ていたが、近付くにつれて、私のよく知っている人物だと気付いた。
私の前で止まったその人物は、息を整えてから口を開く。
「ルリ、迎えに来やしたぜ」
「何で……?」
「近藤さんが、可哀想だから迎えに行ってやれって言ったんでさァ」

そう言って微笑む彼に、私は不覚にもときめいてしまった。
「重いでしょう?荷物、持ちまさァ」
私は、一つだけ持ってもらう事にした。

「急いで来たんで、傘一つしか持って来やせんでした」
そう言って、総悟は苦笑する。
迎えなんて来ないだろうと思っていた私にとって、傘の数が一本だろうが二本だろうがどうでもいい事だ。
まぁ少し恥ずかしいが、雨のおかげか私達の周りには誰も居ない。

「さ、帰りやすぜ」
総悟はそう言った後、私に手を差し伸べ、傘の中に入れる。
掴んだ総悟の手が、雨に濡れたからか冷たかった。

「総悟」
と彼の名前を呼べば、可愛らしい瞳がこちらを向く。
「ありがとう」
私がお礼を言うと、総悟は少し照れながら、返事を返した。
どうやら、私のトシへの怒りは、雨と憂鬱さと共に流れていったみたいだ。
それどころか、この状況に感謝したいぐらいになっている。

小降りになった雨が、私達を優しく濡らす。
まだ繋いだままの手から総悟の温もりが伝わってきて、私は自然と顔が綻んだ。

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