短編・企画・過去拍手

□過去拍手其の九
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月明かりだけが照らす夜の闇の中。
今はもう使われていないビルの屋上に、漆黒の衣装を纏った一組の男女が居た。

「ねぇ」
「ん?何、エンヴィー?」
「なんで人間って、馬鹿な事ばかりするんだろうね」
「さぁ?人間だからじゃない?」

不意に男――エンヴィーが訊ねた言葉に、女は即答する。
その答えに、エンヴィーは不服そうに眉を顰め、言い返した。

「だって…同じ過ちや意味も無い争い、裏切ったり裏切られたりを繰り返して、結局は何の進歩もなし」
「うん」
「助け合うよりも、いがみ合う方が多い」
「そうだねぇ」

「でさ、思ったんだけど――そんな人間共、この世界に必要なのかな?」
「必要だよ。少なくとも、あたし達にとっては」
「まぁ、そうだけど……」
「?」

歯切れの悪い言葉に、女はエンヴィーの方を向く。
彼の整った顔が、月の光に照らされ際立っている。

「…人間の世界で生きる人が、その人間を嫌うなんて、変なハナシだと思わない?」
「確かに、言われてみればそうかもねぇ…」
「そんなふうにして生きている人間が、人の世界には必要あるのか」

女は、少し俯いて考えてから、思った事を口に出した。

「……ま、そんな人間が大勢居れば居る程、あたし達には好都合だけど」
「でも、そんな事を繰り返していたら、いつか身を滅ぼされる事になる」

「僕達なんかに。……もしかすると、自分達人間同士で」
「うん。でも……」
「?」

今度は女の言葉に、エンヴィーが首を傾げた。
そして、次の言葉を待つ。

「あたしは、そんな廃れた心を持っていない人間が、この世の中でどう生きていくかが見てみたいね」
「ふーん?でもそういう人間に限って、辛い人生を歩む事になるんだよね〜」
「うん。……それでも、必死に足掻いて、人を信じて生きていく人間は、綺麗で美しいと思うよ」

―――例え神がいくらその人を嫌っても。
女は最後にそう呟き、もうすぐ日が顔を覗かせる空を見上げる。

「んー、僕は人間なんて、馬鹿でどうしようもない生き物だと思うけど」
「あはは。エンヴィーは、人の黒い部分を見るのが好きだからね」
「うん。特に、人間が感情に任せて人を殺す姿なんて、見てて飽きないよ」

日の光が、町を、人を、そして彼等を包み込む。
光を拒むように太陽から背を向けて座っていた二人が、地面へ舞い降りた。

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