短編・企画・過去拍手

□過去拍手其の六
1ページ/1ページ

―― これはユースウェルから東方司令部の間のお話 ――

「ねぇ、お兄ちゃん」
賢者の石について図書館で調べていたエドは、八歳ぐらいの少女に声を掛けられた。

「ん?俺か?」
「うん!」
少女は大きな声で頷く。

すると、本を調べていたアルが戻ってきた。
「あれ?兄さん。
その子は?」
「いや、さっき声を掛けられて…」
「うわぁ〜おっきな鎧だぁ〜」
そう言って少女は、アルを見てキラキラと目を輝かせる。

「どうしたの?
もしかして、迷子?」
「違うよ!
だって、自分のお家で迷子なんか、ならないないでしょ?」
「自分のお家!?」
「そういえば、この図書館の奥はここを管理している人の家だって、誰かが言ってたっけ…」

「じゃあ、何で俺達に話し掛けたんだ?」
「だってお兄ちゃん達、昨日もずっとここに来てたでしょ?
何探してるのかなって……」

エドは少し考えて、アルと目を合わせた後、少女の質問に答えた。
「俺達、賢者の石について調べてるんだ」
「ケンジャの石…?」
「うん。錬金術っていうのは、知ってる?」

少女は少し考えた後、パッと顔を上げて答える。
「壊れたコップやぬいぐるみとかを、あっと言う間に直せるんでしょ?
本で読んだ事あるもん!」
「あぁ。
それで、その力を増幅させる事ができるのが、賢者の石だ」
「ゾウフク…?」
「力を強くさせるって事だよ」

すると、少女が突然声を上げた。
「あ!思い出した!
賢者の石について書いてある本、読んだ事あるよ!」
「本当!?」
「それ、どこにあるか分かるか!?」
「うん!」

少女が大きく頷いた後、本を探しに行って数分後。
少女が手渡したのは…
「……ありえないもの大百科…?」

「えーと…この本は、言い伝えや伝説上のモノについて、色々な文献や出来事等を基に書いた本である……」
エドが淡々と説明書きを読み上げる。
「確かに、賢者の石は伝説上の物とされているけど……」
「目次、…各地で発見される謎の生物!?……東にある国には、妖怪というものが存在する!?………」

「…ねぇ、本当にこの本で間違いないんだよね?」
アルが心配になって少女に尋ねるが、
「本当だもん!
最後の方に書いてあったんだから!」

だが確かに彼女の言うとおり、そこに賢者の石のことは載っていた。
「……伝説の生き物は、本当に存在するのか!?………っ!
錬金術の色々な伝説とは!?…アル!!」
「兄さん!読んでみて!」
「あぁ!」

――――……

「…新しい情報は無し、か……」
「ごめんね、役に立てなくて」
「べ、別にお前が謝る事はないだろ?」
「そうだよ!
しかも、この人語を話す合成獣!?っていうの、興味あるし!」

目線を地面に向けて、今にも泣き出しそうな少女に焦りながら、エドとアルは必死に少女を励ます。
すると、次第に少女の顔に笑顔が戻っていった。

「でも、本当に人語を話すキメラがいるなら、それを造った人に話を訊いてみたいな」
エドがポツリと洩らす。
「軍の記録にも残ってるって書いてあるし、調べてみる価値はあると思うよ」
「あぁ。
ここから近いのは、東方司令部だな……明日には、出発するか」

だがその言葉に、少女はまた泣き出しそうになる。
「…二人とも、もう行っちゃうの?」
「うん…」
「もう会えないの?」
「そんな事ないよ!
いつかきっと、また会える!!」

それでもまだ不安気な少女に、今度はエドが口を開いた。
「じゃあ、俺達が目的を果たしたら、お前に会いに行く」
すると、少女の顔が明るくなった。
「本当に?約束だよ!」
「おう」

図書館を出て、アルが口を開く。
「兄さん、あんな約束してよかったの?」
「何年先になるかは分かんねぇけど、俺達は絶対に体を取り戻す。
その時を待ってくれる人が、一人増えただけだろ?」
不適に笑いながら言われた言葉に、アルが頷いた。
「うん。そうと決まれば、一秒でも早く、元の体に戻らなきゃね!」
「だな!」

真っ赤に染まった夕日が、二人の背中を照らす。
その背中を、少女がいつまでも眺めていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ