短編・企画・過去拍手

□過去拍手其の参
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「ねぇ、君」
数メートル離れた場所に立っている血だらけの女は、血だらけの地面を見て言う。
君というのはたぶん、いや絶対に僕の事を示しているのだろう。
だってここには、女と僕しか生きているモノは無いのだから。

「あたしの事が、怖くないの?」
今度はしっかり、僕の方を見て言う。
女の血の色に似た真紅の瞳が、黒い部屋の中で一際目立つ。
「別に僕は、もっとスゴイモノ見てるからさ」
僕が答えると、女はまた血だらけの地面に目線を戻す。

僕がここに来た理由は、ここがラスト達との待ち合わせ場所だったから。
ここに来た時にはもう、この女以外は死んでいた。

もうすぐラスト達が来る頃だな。
どうやって説明しようか、この光景を。
こんな面倒な事に巻き込まれるくらいなら、いつもみたいに遅れて来ればよかった。

僕が色々な事を考えている間も、今も、この女はずっと地面を見ている。
一回帰って、ラスト達が着いた頃にまた来ようかな。
うん、そうしよう。
だって、そっちの方が楽だし。

「じゃあ、僕は行くよ」
一応女にそう言った後、僕は猫に姿を変える。
その姿で一度女の方を見てみると、女もこちらを見ていたのか、目が合う。
どうやら、僕が姿を変えている所を見られてしまったらしい。
……別に、隠すつもりも無かったけど。

女は驚きもせずに、真紅の瞳でずっとこちらを見ている。
女が何を考えているかなんて、勿論僕には分からない。
しかも女は僕から目線を外さないので、なんだか行きにくくなってしまう。

「君も人じゃないの?」
いきなり女が言った言葉に、僕は目を丸くした。
僕の事を人間じゃないなんて思うのは普通の事だろうが、この女は君“も”と言った。
じゃあこの女は、僕達と同じ人造人間だと言うのか。
それとも、別のナニか?

「あたしの体はね、色んな動物が混ざってるの」
「でも、元は人間じゃん」
僕は少しきつい口調で言う。
でも女は、少しも怯えた様子を見せずに穏やかに答える。

「確かに、元は人間よ。
でももうその時の記憶なんて無いし、自分がどこの誰かも分からない」
女は僕を見て言うが、その瞳はどこか遠い所を見ている様だ。

「しかも色んなモノと混ぜられすぎて、人間なんて到底呼べない様な体になっている」
そう言うと女は自嘲気味に笑って、
「あたしって、一体何モノなのかしら?」
と、僕の方を見て言った。
それは僕に言ったのか、それとも自分自身に訊いたのかは分からなかったが、僕はなぜか答えることが出来なかった。

「それじゃあ、黒ネコさん。
機会があればまた」
そう言って女は、窓から飛び降りる。
柔らかく微笑みながら言われた言葉は、僕の頬を赤く染めた。

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