夏目友人帳

□第五話 主人公サイド
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「おい夏目、まだあんな事言ってんのか?」
「止めとけよ、コイツと関わると呪われるぜ?」
「じゃあ、俺がお前を呪ってるお化けを退治してやるよ。
――えい!」

石を投げられた男の子。
あれは紛れも無い、幼い頃の夏目貴志。
今も尚、罵声と石とが夏目へと飛んでいる。

夏目が何をした?
何故彼ばかり傷付かなきゃいけないの?
どうして誰も彼を認めないの?
色んな思いが、頭の中を駆け巡る。

止めなきゃ。
どんな方法でも――私が傷付いてでも。
夏目がこれ以上傷付くのは嫌だ。
だが、いくら力を入れようとしても、私の体は1ミリも動いてくれない。

――これは夢。
そして、今見ているのは夏目の過去。
私がどうしようと、変えられはしない。

分かってる。
そんなの、始めから。
過去の夏目を助ける事も、今の夏目の傷を消す事も、私には出来ない。
だが、今目の前に居る夏目が傷付くのを、黙って見ている事など出来る筈ないじゃないか。

今すぐに、夏目を抱き締めたい。
それで、彼の傷が癒えるなら。
彼の体が、心が、傷付く事のないように。
だが、気持ちとは裏腹に、私の体は一向に動こうとしない。

傷だらけの夏目。
私は…私はこんなにも非力なのか。
一瞬、彼がこちらを見た気がした。



――この世界はなんて不公平なんだろう。
生まれて死んでいく以外、公平な事など一つも無い。
幸せがあれば不幸があるなんて言ってる奴は、何も知らない幸せ者だ。
楽しいだけの人生も、辛いだけの人生も、同じ時間を歩み、生きてきた事に変わりはない。

だから。
だから私は、この世界がダイキライだ。
この世界を創ったカミサマも。
今この世界を作っている、薄汚いニンゲンも。

ただ、もしそれらに頭を下げる事があるならば。
私は真っ先に、こう頼むだろう。
夏目が――夏目の綺麗で脆い心が、これ以上傷付かないように。
彼を支えて、認めてくれる人が、一人でも多く居るように。

だって…彼は、夏目は、
私の事を、初めて見てくれたヒトだから――



鳥の囀り。朝の日差し。
脳が、段々と覚醒してくる。
ゆっくり目を開くと、太陽の光が目に入り、眩しい。

「あ、起きたのか」
優しい声のした方を見る。
私の目に映ったのは、服を整えながら微笑む彼の姿だった。
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