夏目友人帳

□第四話 夏目サイド
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「貴志君、何か良い事でもあった?
そんな顔をしてるわ」
「え?
――友達が増えたから、ですかね」
塔子さんに聞かれ、そう答える。
友達。
そう呼ぶには相応しくないのかもしれないが、嘘も吐けない。

「あら、じゃあ今度、私達にも紹介してくれる?」
「…はい」
いつか。
この人達に、妖が見えると言うその日まで。
…いや、彼女に人に化けてもらったほうが早いかな。

「あの、塔子さん」
夕飯を食べ終え、食器を洗っていた塔子さんが振り向く。
「この蜜柑、貰って良いですか?」
「勿論!
…ご飯、少なかったかしら?」
「いえ!おいしそうなので、食べたくなって…」

「そう、甘い物は別腹って言うものね。
ほら、ネコちゃんの分も」
「ありがとうございます」
視界の端に、上機嫌なニャンコ先生が見えた。

先生と共に、早足でおれの部屋へと向かう。
襖を開けると、畳の上に稟が座っていた。
「稟、お待たせ。
――本当にこれだけで良いのか?」
「うん。不思議と、あまりお腹空かないし。
ありがとう」
おれにそう言うと、彼女はみかんをむしり始めた。

「こやつの場合、少しの食いモンでも強力な妖力に変える事ができるんだろうな。
…全く、元$l間のくせに」
ニャンコ先生はそう言っているが、本当に大丈夫なのだろうか?
遠慮して…なんて事、無いよな?

そう思いながら、おれは一つ残っていた蜜柑を拾い上げる。
「ニャンコ先生はおれと半分ずつだ」
「なぬ!?
何故こんな小娘が一つで、私が夏目と半分こしなきゃならんのだ!」
「先生はさっき夕食食っただろ?」
正直、これも本当は稟が食べるべきなのに。

と、彼女がむしり終わった蜜柑を差し出してきた。
「私は別に大丈夫だから、これ食べて」
「おぉ!聞き訳が良いな、小娘。
ほら夏目、こいつもそう言って…」
「駄目だ稟!」
おれが、素早く制止する。

「本当はもっとちゃんとした物を食わせてやりたいんだが、悪いが今はこれくらいしか用意できない。
…おれのせめてもの気持ち、受け取ってくれ」
そう言うと、彼女は微笑みながら受け取ってくれた。

それから、宿題等をした後、布団に入る。
ニャンコ先生は、飲みに行っていない。
だが、今日はニャンコ先生の代わりに稟が居る。
…自分で誘っておきながら、一緒の布団で寝るのはかなり恥ずかしい。

背中合わせになって横になると、僅かに背中が触れる。
妖なので、彼女の背中は冷たい。
だが、冬だというのに、不思議と寒くはならなかった。

暫くすると、彼女が寝息を立て始めた。
それと同時に、おれにも睡魔が襲ってくる。
それから数分と経たない内に、おれは眠ってしまった。

その日流れ込んできた、記憶。
それはたぶん、隣で眠っている彼女のもの――
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