夏目友人帳

□第一話 夏目サイド
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ツユカミさまが居なくなって、数日経つ。
彼女に出会ったのは、おれが久しぶりに祠に足を運んだ帰り道のことだった。

青空の下、ニャンコ先生と歩いていると、道の真ん中に人が立っているのが見えた。
制服を着ているので、学生だろう。
…あんな薄着で寒くないのだろうか?

最初はあまり気にしなかったが、近付いても尚立ち尽くしている彼女が気になり、おれは後ろから声を掛ける。
「あの、」
彼女は、驚いたのか肩をピクッと揺らし、振り返った。

「え…?」
そして、おれの顔を見た途端、彼女は大きく目を見開く。
だが、それは一瞬だった。

「どうかされたんですか?
道の真ん中で俯いているから、気になって」
おれは彼女に尋ねるが、彼女はまた俯いてしまった。

それにしても、おれはこの人とどこかで会った事があるのだろうか?
それとも、彼女はおれの事を知っているのか。
…気まずいな。

体調でも悪いのかと思い、おれは彼女の顔を覗きこむ。
「具合でも悪いんですか?それなら…」
「あ!ぇと、大丈夫です」
それなら家まで送りますよ、と言おうとしたが、その前に返事が返ってきた。
見た所顔色は悪くなさそうだし、たぶん彼女の言った通り大丈夫なのだろう。

だが、また俯く彼女が気になる。
…何か言えない事でもあるのだろうか?
そう思ったが、おれは所詮他人だ。
あまり詮索するのも良くない。

それでは、とこの場を去ろうとすると、彼女が顔を上げる。
だが、彼女より先に、下から声が聞こえてきた。
「む?
…お前、人か?」
え…?ニャンコ先生?

「あ、ニャン…コだ」
何で喋ったんだ!?と言いたいが、その前に、この状況をなんと説明しよう。
気付かれてなければ良いのだが…。

「あれ…?
今、このニャンコ喋った気が…」
おれの願いは、すぐに裏切られた。
「その…実は、その猫……」
おれが何と言おうかと考えていると、ニャンコ先生が割って入ってくる。

「お前、本当に人の子か?」
「「え…?」」
ニャンコ先生の言葉に、おれの頭は真っ白になった。

「私、人間だよ?猫ちゃん」
彼女が、呆気に取られたように答える。

なんで…なんで先生は彼女にそんな事を?
「何言ってんだニャンコ先生…!」
おれはニャンコ先生を睨みつけるが、先生はお構いなしに続ける。

「お前からは、人の匂いがしない。
…そうとうな妖力は感じるがな。
まさか、人に化けて夏目を食うつもりじゃないだろうな?」
その言葉に、おれはハッとして身構えた。
友人帳目当てでおれに近付いてきたのかは知らないが、妖ならその可能性は十分あり得る。
…今更だとは思うが。

「私は…人間だよ?
弱くて小さな、人間だよ?」
彼女は弱々しく呟くと、また俯いた。
そして、突然ブルブルと震えだす。

「どう、して?
…私、人間だったよね?
妖怪なんかじゃ、なかったよね?」
正直、彼女の言葉の意味は分からないが、彼女が嘘を言っているようには見えなかった。
だって…今にも壊れそうで、こんなに震えているじゃないか。

おれは…何と言えば良い?何をすれば良いんだ?
こういう時、どうすれば傷付けずに済むんだ?

おれが慌てていると、ポツリと、ニャンコ先生が呟いた。
「そうか…。人だった≠ゥ…」
だがおれは、ニャンコ先生が話すと同時に倒れてきた彼女に驚いて、先生の言葉は聞こえなかった。
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