夏目友人帳

□第一話 主人公サイド
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目の前には、私がよく知っている人。
…一方的に、だが。

「どうかされたんですか?
道の真ん中で俯いているから、気になって」
こっちが訊きたい。
どうして?どうしてキミがここに居るの?

…あぁ。私がここに居るのが変なのか。
ここは、夏目≠フ居る世界なのか。

心の中で自問自答していると、夏目が心配そうに顔を覗きこんできた。
たぶん、質問に答えない私が気になったのだろう。

「具合でも悪いんですか?それなら…」
「あ!ぇと、大丈夫です!」
…なんで大丈夫だと答えたんだ、私のバカ!家が無いと言えば、夏目は優しいから…。
そこまで考えて、それは随分と身勝手だなと思う。
やっぱり、他人に迷惑を掛ける訳にはいかない。

あの家の人達は、家が無いと言えば、自分の子供のように私を受け入れてくれるだろう。
だが、私なんかが、その人達にしてやれる事もない。
ただ、皆に迷惑を掛けるだけ。

もう、のたれ死んでも良いか。
最後に、彼に、夏目に出会えたんだ。
……それで良いじゃないか。

お礼を言って私が離れようと口を開く前に、下から声が聞こえてきた。
「む?
…お前、人か?」
「あ、ニャン…コだ」

危ない。ニャンコ先生≠ニ言い掛けた。
なぜ知っているのかと訊かれたら面倒だ。
というか、今喋ったよね?勝手に。
ここはスルーしない方が得策か。

「あれ…?
今、このニャンコ喋った気が…」
そう言って夏目を見ると、夏目は顔を真っ青にして、冷や汗を掻いている。
「その…実は、その猫……」
気まずそうに夏目が言った言葉を、ニャンコ先生が遮った。

「お前、本当に人の子か?」
「「え…?」」
この言葉に、私も夏目も驚く。

「私、人間だよ?猫ちゃん」
確かに、道の真ん中で立ち尽くしていたのは、変かもしれない。
だが、人かと問われる程のことでもない。
何で、そんなことを…?

「何言ってんだニャンコ先生…!」
夏目も、訳が分からないといった様子で、ニャンコ先生を見る。
ニャンコ先生は睨んでくる夏目を無視し、言葉を続けた。

「お前からは、人の匂いがしない。
…そうとうな妖力は感じるがな。
まさか、人に化けて夏目を食うつもりじゃないだろうな?」
その言葉に、夏目はハッと身構える。
私はそんな夏目を気にせず、話し出した。

「私は…人間だよ?
弱くて小さな、人間だよ?」
そこまで弱々しく言って…気付いた。
私はトリップしてしまった事で、アヤカシと呼ばれるものになってしまったんじゃないかと。
…そう考えると、急に寂しくなった。

「どう、して?
…私、人間だったよね?
妖怪なんかじゃ、なかったよね?」
混乱している私に、夏目はどうすれば良いか分からず、うろたえている。

「そうか…。人だった≠ゥ…」
ニャンコ先生の声が、遠くの方で聞こえた気がした。
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