デュラララ

□第七話
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昨夜の帰り道で、明日、つまりは今日池袋でデートしようよと臨也に誘われて。
「別に良いけど」なんて言ったが、後で考えてみれば何が悲しくて男とデートしなきゃいけないんだ。
まあ彼にしてみれば単に遊びに行こう、或いはぶらぶらしようなんていうのを、ふざけてデート≠セなんて表現したに過ぎないんだろうし、俺もそこまで深くは考えていなかったのだけど。

臨也に服を見繕ってもらったり、喫茶店で一息ついたり、街道をのんびり歩きながらウインドウショッピングをしたり。
…ああ、これは確かにデートだな。

何をしようとも明確に決めてはいなかったが、ただ一つ目的があった。
――竜ヶ峰帝人。臨也君が今最も興味を抱いている人間であり、俺が所属するチームの創始者。
入学したての高校生は既に下校しているようで、先程から制服姿をちらほら見かける。

「ここに居れば、来るの?」
「可能性は高いと思うよ。
彼の家はこの近くだし、この通りは上京したばかりの彼にとっても中々見所のある場所だろうから」

そして数分もしない内に、見つけた。
運が良いのか、臨也の計算通りなのか。
少し先で、制服を着ていなければ中学生くらいに見える少年が、じっと路地裏を見詰めている。

臨也がそっと近寄って行くのを倣う。
帝人くんの目線の先には数人の女の子達が居て、その中で雰囲気が他とは異なる子が一人取り囲まれていた。
全員来良の服を着ている。

漏れてくる話を聞いていると、どうやらイジメの真っ最中らしい。
今時こんな古典的な苛めもあるのか、なんて半ば感心しながら見ていると。
急に帝人くんがその中に割って入るものだから、思わず俺まで呆け顔になる。

差し金は臨也らしい。
あんな空間にいきなり放り出されたら、俺だって狼狽するわ。

苛めていた女の子達は、帝人くんの後ろの臨也を困惑顔で見遣る。
当の臨也は彼女等に近付くと、苛めに対する非難を述べた。
尤もそれは、まるで道化が語るような戯れ言だったが。

そこで女の子達が切れた。
一人が荒々しく声を上げて吠える。
臨也もエンジンがかかったようで、彼女達とは対照的に笑顔を浮かべながら、ぺらぺらと言葉を浴びせかける。

というか、臨也お前、おっさん≠ニ言われて切れただけだろ。
全く、大人気ない。
年下にちょっと悪口言われたぐらいで怒るなよ。
未だに店員さんに「未成年の方は…」なんて言われる俺の方が余程屈辱的だわ。
身分証なんてない分弁明できないから余計に。

少し空しくなりながら、いよいよナイフを取り出した臨也を見て、帝人君を少し彼等から遠ざけるように引っ張る。
彼は目を見張ったが、俺が声には出さずに「ごめんね」と言うと、悲しむような達観したような複雑な表情を見せた。

と、機械的な笑いと規則的な音が聞こえてきて、二人同時にそちらに顔を向ける。
見るとその発信源は臨也とその足元のようで、無残に砕け散ってはっきりとはしないが恐らく携帯であろうそれを彼が踏み潰している。

あーあ。訴えられてもしらねーぞ。
なんて思うが、苛めをしたという手前良識のある大人にこのようなことを話すのは躊躇われるだろう。
それにしたってやり過ぎだと思うのは致し方ない。

女の子達がこの異様な光景に逃げ去ると、彼はくるりと帝人くんに向き直る。
そして苛めを止めようとした彼を一先ず称えると――尤も実際彼は殆ど何もしていないのだが――、臨也は彼に自分がこの場に現れた真実を告げる。

そこで、帝人くんの隣で成り行きを眺めていた俺の右側、つまりは大通りの方から何か視線のようなものを感じて、ふとそちらを見遣った。
「あ」
俺がそう漏らすと、二人も何事かと俺の視線の先を追う。

「―っ、」
同時にこちらに飛んできたのは大きな塊で、数メートル先で大きな音を立てて地面を跳ね、やがてガランと横たわったそれは、コンビニの入り口前に置いてあるゴミ箱だった。

臨也は俺の呟きからそれが放たれるまでの一瞬の判断でそれの直撃を回避したらしく(いつも思うがお前の身体能力もある意味化け物だ)、それを投擲した人物の名を忌々しげに吐く。
怒りを目に見えるくらい湛えたバーテンダー姿の男は、紛れも無く臨也の宿敵にして俺の友人である平和島静雄その人だった。
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