夏目友人帳 U

□第二十三話 主人公サイド
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「・・・つばめ」
家へ戻ると、燕が夏目の部屋で横になって眠っていた。
「燕。起きろ燕」
「・・・夏目様・・・?」
燕は起き上がると、夏目と向かい合う。

「・・・あ、今夜遅くは雨が降ります・・・ん?
どうなさいました?そのお姿」
「燕、谷尾崎さんはいまから、町内会の祭りに参加するらしい。
この浴衣を着ていっておいで」
「え、!この浴衣は・・・・・・」
燕は声を上ずらせてそう呟く。

「悪いけどおれはヘトヘトでついていけない。
そう離れてはいないから、燕だけでも行ってこられるよ。
一晩だけの効力だし、燕は妖力が弱いから人と言葉を交わすのは無理かもしれないけれど。
それでもいいなら、行っておいで」

「――夏目様」
「燕」
夏目は燕の言葉を遮る。
「人を嫌いにならないでくれてありがとう」
人を、嫌いに――

「優しいものは好きです。
あたたかいものも好きです。
だから人が好きです。
夏目様。ありがとう」
燕は夏目をふわりと抱きしめる。

「ありがとう、夏目様」
そして私にも顔を向けた。
「稟様も、ありがとう」

「いってきます、お二人とも」
いってきます。



それ以降、燕は戻ってこなかった。
燕の言った通り夜から降った雨は、二葉の村をまた水の中に沈めてしまった。

その雨が明けた日、私と夏目とニャンコ先生は、水に浸かった二葉の村を見に来ていた。
「燕は村に帰れたのかな」
「地に縛られたものは他に取り憑かなければその場を放れられないが、帰るのは簡単だからな」
「―――そうか」

「案外成仏してしまったかもしれんな」
「はは、だったらいいなぁ」
水底の村を見遣る。

私も、いつか帰る時が来るのだろうか。
我が儘を言うのならば、ずっとここに居たい。
――ここが私の帰る場所に、なれたら良いな。

そんな事を思いながら、次は燕と毎日来ていた谷尾崎さんの通勤路にある一本の木へ向かう。
「・・・よいっしょ」
掛け声と共に木の上に登った夏目の手を借りて、私も木の上へ登った。
夏目の肩から下りて枝の上に座ったニャンコ先生を挟んで、少し高くなった視線で街を眺める。

「――まったく夏目、稟。
お前らにはふりまわされるな」
「そうかい?」
先生の言葉に、私は苦笑を漏らす。
何だかんだでニャンコ先生には助けてもらっているなと、思い返しながら。

「――先生は、最後まで側にいてくれるんだろ?」
敢えて二人と言わないのは、たぶん気を使ってくれているのだろう。
「ん?喰っていいってことか?」

「先生もいつか、おれに情が移るかな」
夏目は先生へと目線を移して、そう尋ねる。
「お前のほうはどうなんだ」
「――さあ、どうかな・・・・・・」
そう言って夏目が顔を前へ向けると、丁度谷尾崎さんが歩いていた。

私たちは木から飛び降りて谷尾崎さんを呼び止めると、燕のことを訊く。
どうやら二人は会うことができたようで、その時の写真を見せてもらった。
そこには、恥ずかしそうに、嬉しそうに笑う燕が、谷尾崎さんとならんで映っていて――。
私はいつの間にか、笑みを零していた。
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