夏目友人帳 U

□第二十二話 主人公サイド
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「よし」
垂申は紙の面に目と書くと、それを着物を着た夏目に付ける。
「墨に私の血を混ぜたので、これで妖怪達はあなたを人だと気付かない。
布がずれるとばれて喰われてしまいますよ、ご用心を」
紙の面で妖怪達のごった返す祭りに参加すれば、面が取れるどころか破けそうな気もするのだが。

「飛び入り歓迎、妨害行為もオッケーで、妖力を使わずあの杉の上の浴衣に一番早く触れた者が優勝です」
目線を上げると、一本の大きな杉の木の天辺に掛かった綺麗な浴衣が、ひらひらと風に靡いていた。
それにしても、妖力とはどれくらいの範囲を指すのだろう。
まだこの体になってそんな類いをあまり使っていないせいか、勝手が分からない。

「・・・・・・。なぜこんなふうに手伝って?」
「面白そうだからですよ、食べてしまうよりね」
その時、一際大きな太鼓の音が周囲に鳴り響いた。
「あ、はじまりますよ。いってらっしゃい」

「――――お前もやっぱり、この村に残るのか?
沈んでしまうのに」
「何者にでも離れ難いものはあるのさ」
垂申は感慨深そうに言う。

「―――そうか。
ありがとう、垂申」
夏目はそう言うと、妖達に混じって歩き出した。

「ふふ、さすがに少し夏目レイコに似ているな。
レイコとはこんなに話をしたことなどないがな」
「・・・・・・」
ドオーンと鳴った太鼓の音と同時に、妖達が一斉に走り出す。

「おーはじまった。
しかしあんな短い手足でもののけに勝てるわけないだろうに」
「まったくだ。馬鹿でかなわん」

暫く私はそこに居たのだが――
「あ、おい!」
ニャンコ先生の上げた声を無視して、私は夏目の元へ向かった。

大きな妖達の間を掻い潜る。
周りを見ると、引っ張ったり掴んだり、時には噛み付いたりしている妖も居た。
私は妨害の手を躱し、ひたすら前へ進む。

「夏目!」
「?・・・稟!?」
夏目は顔に引っ掻かれたのか傷を負っていて、何匹かの妖に服や体を掴まれていた。
このまま放っておけば、面も取れてしまいそうだ。

私は夏目を掴む妖達を引き剥がそうと、その手を叩いたり抓ったりする。
だが当然その程度の攻撃で妖が夏目を離してくれる筈もない。
このままじゃヤバイ。
面が外れる。
それに夏目も・・・こんなにボロボロだ。

それを思うと、急に怒りが込み上げてきて、
「夏目を――離せ!!」
いつの間にか、そう叫んでいた。

「ひっ!?」
周りの妖達が一瞬怯む。
その隙に私達は杉の木に向かって駆け出すが、またすぐに別の妖達に捕まってしまった。
このままじゃ、優勝なんて出来っこない。

と、そこへビュオオと風の凪ぐ音が後ろから近付いてきた。
「蹴散らすぞ夏目!
こい!!」
ニャンコ先生だ。
私と夏目は勇ましい姿に変身した先生に掴まる。

そこからは一瞬だった。
ニャンコ先生は周りの妖達には目もくれず、杉の上まで駆け上る。
そして夏目が夕焼けの赤を受けてキラキラと輝く蓮の模様の浴衣をそっと手に取ると、ドドンと太鼓がこの競技の終わりを告げた。
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