夏目友人帳 U

□第二十一話 夏目サイド
1ページ/2ページ

「ただいまー・・・あれ?」
家に帰ると、垂申が玄関の戸の前に立っていた。
「なんでまたお前が?」
おれは驚き半分呆れ半分に問う。
「ふふ、今宵はふたばの祭りがありますので、酒を持って参りました」

「ふたばの祭り?」
「はい。元々二葉村は蓋場といいまして、闇の境界があやふやな所でして、四年に一度妖怪が集まって祭りをしておりました。
水没して以来出来なかったのですが、干上がっているうちに一度やっておくかということになりまして」
「へぇ」

「踊ったり飲んだり賭けをしたり。
競争をして優勝者には一晩だけ人間の姿になれる浴衣が贈られたり、」
「・・・え?」
「お祭り騒ぎでフィーバーフィーバーなのですよ」
「今、何て言った?」

「お祭りさわぎでフィーバーフィーバー・・・」
「人間の姿になれる浴衣って?」
「おや、興味がおありですか?」

それがあれば、燕を谷尾崎さんに合わせてやることが出来るかもしれない。
「――行ってみますか?夏目様」
おれはその言葉に、固唾を呑んでこくりと頷いた。

「そうと決まれば早く行かないと。
祭りに間に合わなくなってしまいますから」
垂申はそう言うと、おれの左手首を持って走り出す。
おれはもう一方の手で稟を握ると、祭りの開催地、森の奥へと駆け出した。

それから数分、
「どこへ行く、夏目」
声を掛けられ振り向くと、そこにはどこかに行っていたニャンコ先生がおれの後ろを走っていた。

「ふたば祭り」
おれは簡潔にそう答える。
すると垂申からは舌打ちが、ニャンコ先生からは驚きの声が返ってきた。
それと同時に、二人はどろんと返信する。

「あんな妖怪達の祭りに行ったら、お前など喰われるぞ夏目」
「え」
喰われる?
「むっお主、斑か!?
邪魔をするな」
「夏目を連れて行って皆で酒の肴にする気だな!?」
おれを喰う気だったのか?

「人を喰って何が悪い!
人間に関わって腑抜けたか斑、情を移すとは」
「夏目を喰うのは私だ!!
こいつとはそういう約束だ阿呆」
「そんな約束してないぞ」
「・・・・・・・・・」


「けれど浴衣の話は嘘ではないのだろ!?」
おれは二人を見上げながら言う。
「肴になるつもりはないが、その浴衣には興味がある。
先生、連れていってくれないか」

「何だとぉ?
お前また面倒なことを」
「・・・・・・」


「あんな下級の為に?
あなたに利など何もありませんよ、夏目殿。
なぜそんな馬鹿馬鹿しいことを!」
垂申はおれを見下げながら、諭すように言った。
なぜ―――・・・

「――情が移ったからさ。
友人の為に動いて何が悪い」
おれがそう叫ぶと、垂申は少々呆気に取られていた。

「馬鹿め、馬鹿ったれめ。
だからガキは好かんのだー!!」
ニャンコ先生が怒って吠える。
「面倒ばかり!!」
「うるさい!!」

おそらく祭りが始まったのだろう。
どこからか太鼓の音が響いてきた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ