夏目友人帳 U

□第二十一話 主人公サイド
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「ただいまー・・・あれ?」
家の前には、酒瓶を持った牛妖怪――垂申の姿があった。

「何でまたお前が?」
夏目が尋ねると、垂申はふふ、と笑って答える。
「今宵はふたばの祭りがありますので、酒を持って参りました」
「ふたばの祭り?」

夏目が鸚鵡返しに言うと、垂申はそれについて説明した。
何でも、村が水没してしまう前に、妖怪達が集まって祭りを開くらしい。
「へぇ」
「踊ったり飲んだり賭けをしたり。
競争をして優勝者には一晩だけ人間の姿になれる浴衣が贈られたり、」

「・・・え?」
人間の姿になれる、着物・・・?
「お祭り騒ぎでフィーバーフィーバーなのですよ」
「今、何て言った?」
「お祭りさわぎでフィーバーフィーバー・・・」

「人間の姿になれる浴衣って?」
夏目はきっと、それを手に入れたいのだろう。
燕のために。
「おや、興味がおありですか?」

「――行ってみますか?夏目様」
垂申が夏目を見下ろしながら尋ねた。
夏目は垂申の真意の読めない瞳を見つめると、こくりと頷いた。

それにしても、良いのだろうか?
妖のお祭りに、人間が参加するなど。
それに、前にも夏目は妖達に襲われたんだ。
危険ではないだろうか。

日が傾き始め薄暗い森の中を、垂申に手を引かれる夏目の手を握りながら、駆ける。
私が懐を握り締めると、カチャリと音が鳴った。
私はニャンコ先生の言う通り、妖力の強い妖なのかもしれない。
一級品の懐刀もある。

――だが、それで一体何になるのだろう。
夏目どころか自分の身一つ十分に守れない私が付いていたとしても、きっと意味はない。
かといって、私がそれを説得したところで夏目が諦めるとも思えない。
やはり、先生に護衛を頼むのが一番だろうか。
仮にも用心棒だし・・・。

そう思い、夏目にそれを伝えるため口を開いたのだが、
「・・・?」
背後からかさかさと小動物でも居るような気配がしたので、走りながら振り返る。
「どこへ行く、夏目」
噂をすれば影とは言うが、考えただけで現れるとは。

「ふたば祭り」
「チッ」
「何!?」
夏目の答えに垂申は舌打ちし、先生はかっと目を見開く。
次の瞬間には、両者ともどろんと変身していた。

「あんな妖怪達の祭りに行ったら、お前など喰われるぞ夏目」
「え」
やっぱりそうか。
私はまだ夏目を放さない、三メートル程の大きさになった垂申をキッと睨む。

「むっお主、斑か!?
邪魔をするな」
「夏目を連れて行って皆で酒の肴にする気だな!?」
その言葉に、垂申はニャンコ先生を睨みながら反論する。

「人を喰って何が悪い!
人間に関わって腑抜けたか斑、情を移すとは」
「夏目を喰うのは私だ!!
こいつとはそういう約束だ阿呆」
「そんな約束してないぞ」
怒り気味の夏目の言葉に、ニャンコ先生は黙り込んだ。

「けれど浴衣の話は嘘ではないのだろ!?
肴になるつもりはないが、その浴衣には興味がある。
先生、連れていってくれないか」
「何だとぉ?
お前また面倒なことを」

「あんな下級の為に?
あなたに利など何もありませんよ、夏目殿。
なぜそんな馬鹿馬鹿しいことを!」
落ち着きを取り戻した垂申が尋ねた。
その問いに、夏目は彼の目を捉えながらきっぱりと答えた。

「――情が移ったからさ。
友人の為に動いて何が悪い」
その言葉を言い放ったときの夏目は、あまりにも綺麗で、格好良くて。
私は思わず見とれてしまった。
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