夏目友人帳 U

□番外編第二話
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「お邪魔します」
「先に奥の部屋で待っててくれ。
色々持ってくるから」
「分かった」

ここはお寺――もとい田沼の家。
今日は夏目と田沼の二人で勉強をするらしい。
期末テストが差し迫っているんだとか。
稟は頭が良いから居てくれると助かると夏目に言われたので、最初は流石に遠慮していたのだけれど、結局は私も付いてきてしまった。
勉強を教えるのは、姿まで晒さなくとも夏目に説明すればOKだろう。

暫く言われた部屋で夏目と二人待っていると、飲み物やお菓子を盆の上に乗せて田沼が戻ってきた。
「これでも食いながら、ぼちぼちやろうぜ」
「ああ、そうだな」

夏目が礼を言って田沼からお茶を受け取る。
その時、田沼が私の事をちらりと見た気がした。
だがすぐにノートと教科書を広げだしてしまったので、おそらく私の勘違いだろう。

「――へぇ、ここが田沼の部屋か」
夏目が辺りを見回しながら言う。
純和風で、これといった家具がない簡素な部屋。

「あ、夏目。そろそろ時間だ」
田沼が天井を見上げながら、そう呟く。
「ん?」
「ホラ、部屋の隅の天井見てて」

私もそこを見つめると、次第にゆらりと美しい水紋が天井から壁にかけて浮かび上がる。
その中に一つの魚影が泳いでいた。

「・・・あ」
「きれいな水紋だろ。
魚の影も見える」
「ああ。池の反射かな。
庭にあるのか?」

その言葉に田沼は障子を開けた。
そこには、透き通った水に満たされた、大きな池が佇んでいた。
金に輝く鯉が一匹、踊っている。

「いや、それが庭に池なんてないんだ、ホラ。
だから多分、この天井の水影は、」
田沼には、この光景が見えていないのだろう。
そして夏目には、私と同じように――

「おれ達にしか・・・」
「――え?でも、そこに池・・・」
「・・・ないだろ?池なんて・・・」
「えっ。
――・・・あ。・・・・・・・・・うん・・・」

「・・・そうか・・・」
夏目は目前に広がる風景を見ながら、そう呟いた。

やがて池は徐々に消えていった。
田沼が見ていた風景が、私と夏目の目に映る。
伸びた草、無造作に置かれた石に、細い木が生えているだけの庭。

「・・・・・・・・・」
なんだか少し、重い雰囲気。
私は夏目と田沼を交互に見やる。
すると・・・ぱちり、と田沼と目があった。
そう感じたのも束の間で、彼の瞳は定まらなくなる。
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