長編まとめ

□三巻
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「…あれ?セルティじゃん」
馬の嘶きと共に物凄いスピードで通り抜けていった黒バイクを見かけて呟いた。
今日は珍しく俺は一人だ。

彼女の後ろには十台ほどの白バイが一つの群れのように彼女を追い詰めていた。
まるで映画のようなバイクチェイスが繰り広げられていたが、一瞬で彼女等の姿は見えなくなる。
「セルティに食い下がってくるなんて、凄い警察が居たもんだなあ」
立ち止まっていた足を再び動かす。

周りを眺めると黄色がやけに目立っていた。
恐らく黄巾族のメンバーだろう。
そのトップだった子は元気にしているだろうかと考える。

数週間前のリッパーナイトの事件からダラーズと黄巾族の両者に少々不穏な雰囲気が漂っているのは、この街の事情を多少なりとも気にかけている者なら気付いている筈だ。
ダラーズと黄巾族それぞれのメンバーにも被害者を出したその犯人が、どちらのグループも相手側に所属している、もしくは加担していると踏んでいるらしい。

正臣くんもきっとダラーズを疑って色々と探っているんだろうな。
なんせあの夜、杏里ちゃんも被害に遭ったらしいから。
俺もその話を彼等から聞いて、以前から面識もあったので彼女のお見舞いに行っていた。

きっと友人思いの正臣くんの事だから斬り裂き魔の犯人を何としてでもはっきりさせたい筈だ。
そう、たとえ彼が――再び黄巾族に舞い戻ることになったとしても。

彼に初めて会ったのは二三年程前だった。
臨也が彼に興味を持って、沙樹ちゃんを彼にけしかける時に俺も付いて行ったのだ。
その時は俺達も池袋に住んでいたため偶々彼を見かけることがしばしばあって、彼も付き合いやすい性格だからかすぐに打ち解けた。

俺と彼の関係は、友人というたった二文字で表現できた。
いささか歳が離れている気がするが、それでも彼にとっては黄巾族でもなければ自分が守ってやらなければいけない仲間意識のようなものなどなく、単純に一緒にふざける事のできる俺の存在が気楽だったのだろう。

黄巾族のメンバーと交じってゲーセン等に行くこともあったが、彼個人との付き合いの方が格段に多かったし、彼にとっても帝人くんと沙樹ちゃん以外に黄巾族でないそのままの自分を表せる数少ない存在になっていたのだろうと思うのは、決して俺の自負ではない。
ただ、それ故に黄巾族に関することは臨也の方へ頼ってしまったのかもしれないが。

ぽつぽつと雨が降ってきて俺の思考を遮る。
傘を持っていない俺は、早足で家路を辿る。
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