長編まとめ

□二巻
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「っははは、ここまで思い通りに動いてくれるといっそ見事だな」
机の上に置いてあった大金が入ったバッグが、幾つかの札束を除いてすっかり無くなっているという自分の予想通りの展開に、臨也は声を上げて笑う。

「臨也、もういいんでしょ?」
別室に隠れていた稟が顔を覗かせる。
「ああ。
もうセルティには頼んであるし、後で那須島の奴を脅して罪歌の持ち主を手中に収めれば――」

すっかり自分の世界に入っている臨也を放って、稟は落ちている札束を拾って机の上にぽいと投げ置く。
そして近くの椅子に座り大きな窓から外を見遣る。

月や星が厚い雲に隠れた暗い夜だ。
下を見ると街頭に照らされた通行人が、二月も終わるというのに春の訪れを感じさせない寒さの中忙しく歩いている。

暫くぼーっと稟が外を眺めているとチャイムの音が響いた。
少しして臨也に招かれてセルティが部屋の中に入ってくる。
その手には先程の現金入りのバッグがある。

「お疲れ。これが報酬ね」
セルティは自分の持っていたものを渡し、代わりに厚みのある茶封筒を受け取る。
中身を確認してライダースーツの中に忍び込ませると、彼女は逡巡してから、愛用のPDAを取り出した。

『なあ臨也。お前もしかして、誰かに私の邪魔をするよう頼んだか?』
「は?」
『いや違うならいいんだ。忘れてくれ。
この依頼を受けている最中に、日本刀みたいなものを持った奴に襲われて…しかもそれが普通の人間とは違うようだったから』

「へえ、それ最近話題の通り魔じゃないの?
っていうか、普通じゃないって?」
『いや、目が、というか眼球が赤く光っていたんだ。
何と言うか、宇宙人みたいな…いやもうこの話は止めよう』

「セルティ、苦手だもんね。宇宙人」
今まで黙っていた稟の存在にここで初めて気付いたのか、彼女は少し肩をビクリと揺らした。
『稟、べ、別に私はう宇宙人なんて、怖くなんか…』
「ぶっ、あはは!まさか、首の無い化け物が宇宙人を怖がるなんて…!」
『もういい仕事も終わったから私は帰るぞ!』

大股で玄関に向かうセルティに「また宜しくー」と笑いながら臨也が声をかける。
「セルティ、仕事についてはあんまり口出さないのに。やっぱり怖かったのかな」
バイクに乗って走るセルティを部屋の中から見送りながら、稟がポツリと呟く。

「おかげで良い情報が得られたよ。
まさか本物の″゚歌が現れるとは、良い誤算だった。
…ふん、面白くなりそうじゃないか」
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