長編まとめ

□ダム底の燕
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暑くなってきたある日。
…といっても、この体は温度の変化はあまり感じない。
夏目は友人と山奥のダムへ、ニャンコ先生はどこかへ行ってしまったので、私は夏目の部屋に一人残っている。

そういえば、私がここに来てからもう大分月日が過ぎたような気がする。
することもなければ出来ないことが殆どの日々だが、前の生活よりは幾分も楽しく過ごしている。
そんな毎日を歩ませてくれている夏目は、私にとって、凄く大事な人。
私がここに在るためにも。
私の心が在るためにも。

じゃあ、夏目は…夏目にとって、私は――
――何なんだろう…――?

そんな事を考えていると、やけに下が騒がしい事に気付いた。
「おばさーん。すみません、夏目がっっ」
「あらあら」
塔子さんと誰かが話している。
…夏目に何かあったのだろうか?

その話し声が段々と大きくなってきて、階段を上る音が聞こえてくると、部屋の戸が開けられる。
入ってきたのは、塔子さんと、夏目を担いだ北本と西村。
彼らは彼女の敷いた布団に夏目を寝かせると、帰っていった。

塔子さんは夏目の額に濡れたタオルを乗せると、部屋を後にする。
私は彼女を見送った後、夏目の元へ近寄り顔を覗き込む。
夏目の青白い顔に、私は顔をくもらせた。



「目を回したって?夏目」
塔子さんが言っていたのを聞いたのか、どこかへ行っていたニャンコ先生が帰ってきたのは、夜が更けた頃。
「軟弱な奴め」
「うるさいぞ、ニャンコ先生」

目を覚ました夏目が、怒り気味に言う。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ。ありがとう」
夕刻の青白さもなく、夏目の顔は穏やかだ。

「む?お前…」
すると、布団に近寄ったニャンコ先生がくんくんと夏目を嗅ぎだした。
「……何か?」
夏目がどうかしたのだろうか?

「ご免くださーい」
突如外から聞こえてきた声に、私達は窓へ駆け寄る。
「ご免くださーい」
見ると、そこには四匹もの妖が闇夜に立っていた。
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