長編まとめ

□人間退治
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「行ってきます、塔子さん」
「えぇ。行ってらっしゃい」
塔子さんに見送られ、夏目は家を出る。
私も、夏目の学校へと行く為に、後に続いた。
――と言っても、流石に教室まではついていかないが。

「別に家に居ても良かったんだぞ?」
誰も居なくなった所で、夏目が私に言った。
「家に一人で居るのも居心地悪いし、夏目が妖に襲われでもしたら大変だし!
――迷惑だった?」
私がそう言うと、夏目は一瞬驚き、そしてすぐに首を横に振る。

「え?いや、全然。
でも、おれが終わるまでずっと待ってるのか?」
「そのつもりだけど…やっぱりダメ、だよね」
「いやおれは構わないが…暇だろ?」
夏目の問いに、私は少し考えた後、答える。
「んー…暇なら暇で、寝てればいいし!」

そう話していると、向こうから夏目と同じ制服を着た男子が、二人やって来た。
確かあれは…アレ?ど忘れかな?
――あぁ、思い出した、西村と北本だ。

「夏目、はよー!」
「おはよ、夏目」
「あぁ。おはよう、二人とも」
やはり、彼らに私は見えていない。

私は、夏目の隣から後ろへと移動する。
別に隠れる為などではなく、横に居ると彼ら――主に夏目――の邪魔だろうからだ。
三人の会話を後ろで聞きながら歩いていると、目的地が見えてきた。
「じゃあ、あの木の下で待ってるね。
――また後で」
私が夏目にそう言うと、彼はこちらに笑って返してくれた。

門のすぐ近くに立っている、大きな木の下に座り込む。
暫く学校へと歩く生徒達を眺めていたが、それも次第に少なくなり、やがて誰も居なくなってしまった。
「……寝よ」
誰にも聞こえない独り言を呟き、私は木にもたれかかる。
目を閉じると、思いの外早く私は意識を手放した。

二度寝、三度寝とずっと眠って時間を過ごしていると、いつの間にか空が茜色に変わっていた。
そのままボーッと起きて待っていると、徐々に生徒達が校舎から出てきた。
私はその中から、夏目の姿を探す。

暫く目を走らせていると、
「あ…」
私はそれらしき人物を見かけ、駆け寄る。
「夏目!帰ろ」
「あぁ」
彼は小さく、そう返した。

帰り道、朝と同じ、人が誰も居ない時に私は夏目に話し掛ける。
「そういえば、朝の二人は?」
「ん?――あぁ、西村が居残りで、北本は用事があるって先に帰った」
「ふーん…」
そういえば、それらしき人物を見た気がする。

「あ、そうだ…」
夏目が思い出した様に呟いた。
「どうかした?夏目」
「大した事じゃないんだが…今日学校で、おれの事を訊いてきた奴が居るって西村に聞いたんだ。
誰だったかも分からないし…おれに用でもあったのかと思って」
「へぇ…」
「まぁ、あまり気にする様な事でも無いけどな」

その話、漫画で読んだ事がある気がする。
…思い出せないけれど。
夏目の事を訊いたのは確か、黒髪の男子生徒だよね。
名前は――やっぱり思い出せない。
まぁ、夏目の言った様に、あまり気にする必要は無いのかもしれないし。
そう納得し、紅く染まっている空を見上げた。

決して居心地が悪いとは思わない静かな空気の中、オレンジに照らされた道を歩く。
あの温かな家へと、夏目と一緒に――
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