series【炎】

□Second Mission.『尋問』
1ページ/3ページ



赤い髪の女はチームの皆が見守る中、ユックリと頭を上げつつ、自分の状況を確かめる様に体を身じろいだ。
勿論、拘束されている訳で、縄と椅子の軋む音しか出せない。
山南はソレと同時に、"マインドプロープ《精神探査》"の魔法を唱える。
心の内を全て見れるわけではないが、表層心理の揺れが見れる為、尋問などする際に真実を述べているか確認するのに有効な手段だった。

「はぁ・・・」

山南が唱え終わると大きく息を吐く。
女は魔法にかけられたのに気が付いてはいるだろうが、抵抗した様子は無い。
土方は魔法がかかった事、そして山南の状態を確認する為、チラリとみる。
その視線に気が付き、山南は頷く。
目線を女に戻し、土方は口を開いた。

「自分が、どういう状況か分かるか?」

「随分な人数に囲まれて居る様だな。」

「そうだ。
 だから逃げ出そうとするな。
 正直に答えて貰う。」

「答えられる事なら。
 先に言っておく。
 私には話せる事と話せない事がある。
 しかし誤解しないで欲しい。
 ソレはあくまでも、此処にいる者、全てを巻き込みたく無いからだ。」

「どういう事だ?」

土方は訝しげに問いかける。

「ソレは言えない。」

「仕方ねぇ・・・
 まずは俺達が来る事を知っていたか?」

「知らなかった。」

「なら知らずに偶然居合わせたと云うわけか?」

「そうだ。」

「じゃ仲間は居るのか?」

「居ない。」

「何故、彼処に居た?」

「ある情報を探しに。」

土方は女が答える度に山南を見るが、山南からは肯定・・・嘘は言っていない・・・と云う答えしか返って来なかった。

「ソレは見つかったのか?」

「無かった。
 だから、脱出しようと準備をして居た時・・・
 ソコに居る、バーンアウトメイジが入って来た。」

「おい!」

土方が怒気を含んだ声を出すが、ソコを山南が冷静に止める。

「確かに私はメイジですが、機械を埋め込んでいます。
 ソレが何か?」

「すまない。
 気を悪くしたら謝る。
 ただ確認をしたかっただけだ。
 私より早く魔法をかけられたからな。」

普通、メイジやシャーマンと言った魔法を扱う者は、機械を埋め込む事は行わない。
機械を埋め込むと云う事は、=(イコール) 人としての何かを削ると云う事なり、改造を行うと魔法を唱える時、負担が掛り強力なモノが扱えなくなってしまう。
バーンアウトメイジ・・・燃え尽きた魔法使いの異名を取る者は、魔法を扱うが何等かの理由で改造を行った者の総称であり、また蔑んだ言い方も含まれている。
だから、その女は謝った。

「いいえ、かまいません。
 そういう君はフィジカル・アデプトですね?」

「あぁ、そうだ。」

山南も同じように確かめる意味を込めて質問をする。
彼女が自分を確かめたのも、アデプトとして生身の肉体…無改造の者の中であれば最高速度を誇るはずが、メイジに先手を取られる・・・
つまり、生身では無い事をしめしている事を、純粋に戦う者として確かめたかったのであろうと山南は判断した。

「アデプトって言やぁ・・・」

「何だ、アデプトを知っているのか?」

藤堂がポロリと漏らした言葉に女は反応をする。
土方は、その藤堂を睨み付けるが、山南が・・・・

「我々にもアデプトがおりますから。」

「!」

だが、更に藤堂の言葉を肯定した山南へ驚き、土方は声すらかけられなかった。

「成程。」

「君とは違いますがね。」

「ということは、武器を使うタイプという事か。」

「そうです。
 ところで、君は何処でその技を?」

「父と兄だ。」

「・・・他に、ご家族は?」

「後、姉が。」

声色は先程から変わらぬ様に見えるが、魔法をかけている山南だけ気が付く。

『悲しみ?怒り?』

どちらにしろ、余り良い感情ではない。
深層に押し込められていたモノが吹き出てきたという感じである。
だが、それを指摘するつもりは無かった。

「話を戻しますが、ご家族に習うとなると・・・
 ますます不思議に感じますね。」

「どういう事だ?」

「私の認識では、そういう技の伝承者は余り外に出る事が無いと思ってましたが・・・」

「そうだな。
 だが、こちらにも事情がある。」

「そこは言えませんか?」

「言えない。」

「ふむ・・・」

山南は横目で土方を見ると、何時も以上に苦虫を噛み潰した顔をしている。
仕方ないかと山南は思う。
本来、こういう尋問で、此方の情報を与えるのはもっての他である。
だが山南には・・・一つの考えがあった。
土方が黙ったままという事は、此方に判断を任せると判断をし、話を続ける事にする。

「さて、少し話が反れました。
 フィジカル・アデプトと言えば、もう一つ特徴がありましたね?」

「どういう意味だ?」

「直接、素手で戦闘を行う君達は人体の構造を理解しなければいけません。」

「確かに。」

「その応用で、須く医術を身につけていると聞きました。」

「応急処置程度だ。」

「我々は、その応急処置程度も身につけられておりません。」

「何が言いたい。」

「単刀直入に言いましょう。
 チームに入りませんか?」

「「えぇ!」」

その場に居る者、全てから驚きの声が上がった。

「何を言っている?」

勿論、驚いたのはチームメンバーだけではない。
勧誘された張本人ですら、動揺している。

「応急処置の技術だけではありません。
 君の・・・一人であの場所へ侵入する度胸と技術、また対精霊戦で真面に戦えるのは今迄、私しか居りませんでした。
 ですから、君の力をチームへ生かして見ませんか?
 それから君は何かを探している様子。
 此処にはデッカーも居りますし、企業へのコネもあります。
 何等かの情報が入ってくる可能性は、闇雲に噂を拾って探すより高いと思われますよ。」

「・・・」

女は暫く口を噤み考えている様子だった。
山南は慎重に感じ取れる意識を分析する。

『かなり迷っている様子ですね。』

だが徐々に心の迷いが取れ、固まっていく。
意思が一つに纏まったのを感じた時、女は口を開いた。

「私は構わない。」

「そうですか。
 とはいえ、此方から提案したモノの、あくまでも此れは私だけの意見。
 大変、申し訳ないですが、暫くは・・・」

「わかっている。」

「ありがとう御座います。」

そう言って山南は女に近付き、目を覆っていた目隠しを取る。

「さて、君を何てお呼びすればよろしいでしょうか?」

「本名で無くとも良いか?」

「構いません。
 此処にいる者も全員、本名とは限りませんし。」

「・・・炎。」

ユックリと開いた目は、真っ直ぐに山南を見つめ・・・

「炎と呼んでくれ。」

「わかりました。」


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ