Series『現桜』

□The 33th.「掌中之珠(1)」
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「え?ダメなんですか?」

「すいません・・・
 どうしても外せない用事がありまして。」

「あ、仕方ないよ。
 来週楽しみにしてます。」

「本当にすいませんでした。」

そんな会話をしたのが、数日前。
毎週土曜の夜・・・剣道部2年 葛木桜華も部活が早く終わり、保険医兼事務長 山南敬助も比較的早く帰れる為、毎週食事を共にしていた。

『うーん、ここの所独りじゃなかったからな・・・
 調子狂うわ。』

久しぶりに一人の週末を過ごす桜華。
不貞腐れているわけではないが、なんとなく面白くない。
ゴロンと乱暴に寝っ転がりながら、無意味に携帯を弄る。

『先生・・・
 私と付き合って・・・本当にいいのかな・・・』

時折見せる山南の辛そうな笑顔。
彼が前世の事で贖罪の意識を持っているのは知っている。
時々思う・・・

『本当に先生は私の事を・・・』

いくら鈍いからといっても、桜華だって知っている・・・男と女が付き合うということを。
手をつないだり、軽くキスをしたり・・・それなりにスキンシップはあるが・・・
未だに、それ以上進まない関係。
自分が学生ということもあるかもしれない。
山南は、そういう所を気にしそうな感じもするが、それでも・・・
罪滅ぼしという意味だけで自分の傍に居るのではないかと、不安に思う。

「あー、やだやだ。」

そう言って起き上がると、独りでは色々考えてしまう自分に嫌気をさし、気分転換に外へ行く事にした。


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