Series『現桜』
□番外編The 6th.「卒業旅行」
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函館奉行所を見学した後、暫く五稜郭公園内を歩いていたが、特に感じる事無く(至って普通の緑ある公園だった為か)、次の場所へ向う。
何処へ向かっているかを桜華は聞きたかったが、山南の様子から声をかける事が出来ずに居た。
お互いに沈黙を守ったママ、或る場所に辿り着く。
「ここは?」
降りた駅名・・・その名の通り、どこかの工場地帯の様な場所だった。
史跡が残らず碑だけということも、よくある事だが・・・
山南は黙って、工場の前に有る碑示した。
「弁天台場跡・・・」
桜華は思い出す。
此処が新選組の最後を迎えた場所である事を。
「ご存知の様ですね。」
桜華に目を合わさず山南は言葉を続ける。
「そうです、此処は新選組最後の地。
そして・・・」
山南の顔が歪む。
「前世の貴女が最後を迎えた所でもあります。」
辛そうな山南の様子だったが、桜華は黙って話を聞く。
「勿論、此れは人伝に聞いた話ではあります。
明治2年5月、新政府軍に総攻撃を受け、函館の街を守って居た新選組は、この弁天台場へ追い詰められました。
そして5月11日、新選組隊士として台場を守っていた貴女の体を、一つの銃弾が。
ほぼ即死だったそうです。
貴女の体は、直ぐに島田君の手で、この台場に埋められました。」
桜華は戦争の最中、よく埋める事が出来たなと、少し場違いな感心をした。
そんな桜華の考えを読む様な答えが山南から出る。
「直ぐ埋める様に言ったのは、貴女と聞きました。
女性である自分が居た事が分かるのは後世の新選組にとって良く無いと言って。
島田君はその言葉に従って、此処に。」
「そうですか。」
「私の刀と共に埋められたと聞いています。」
「刀?」
「仙台で私を亡くした後、土方君が残された刀を渡しました。
その時は、その刀を元に私を弔わせるつもりで渡したそうですが・・・」
「違ったわけですね。」
「えぇ・・・
貴女が望んだ事は、新選組と共に北へ向う事。
最初は反対されたそうですが、貴女は聞き入れず、また土方君も強く言えずに受け入れました。」
桜華は何故自分が、そう望んだのか・・・
直ぐに漸く理解した。
「最後の時まで、私の刀を手離さず、戦ったそうです。」
山南は桜華に背を向け、碑に手をかける。
「私はそれを聞いて後悔しました。
貴女に・・・
何て事をしてしまったのかと・・・」
山南の背が小さく震え出す。
「他に・・・
何か残せなかったのかと・・・」
絞り出す様に言ったまま、山南は黙りこんでしまった。
「敬助さん・・・」
桜華は山南の背に名を呼びつつ寄り添う。
「私はコレで良かったと思います。
貴方の刀を携え、新選組を貴方の変わりに守りたかったんだと。
ソレが私にとっての弔いだったと思う。
もし後悔するとしたら・・・」
桜華は、しっかりと声を出す。
「此処で命を落としてしまった事。」
山南の体が強く震える。
「貴方の変わりに最期まで見守りたかった。
前世の貴方が大切にした新選組を。」
「桜華・・・」
「敬助さん・・・
ごめんなさい。」
「貴女が謝る必要は無い!」
山南は勢いよく桜華の方を向く。
そして、再び・・・
「貴女が謝る必要は無いのです。
謝なければいけないのは、私の方です・・・」
「じゃ、お相子だね。」
桜華の一言に言葉が出ず、山南は目を見開き驚いた表情を見せた。
「ソレでいいじゃない。
私は貴方の望む生き方は出来ない、ソレはよく知ってるでしょ?
そして、ソレを知りつつも貴方は自分を曲げる事が出来ない。
私もソレは分かってたと思う。
お互いに分かってても出来ないなら、お相子でいいじゃないですか。」
「ぁ・・・」
山南は何か言葉を発したかったが、言葉を紡ぐ事が出来ない。
「ね?」
そう言って微笑む桜華を見て、山南の目から自然と涙は流れる。
そっと、桜華はその涙を指で拭う。
山南が何かを堪える様な笑みを浮かべた
瞬間・・・
「せ、先生・・・」
桜華は山南に抱きしめられていた。
「もう何度、思った事でしょう。
貴女は、いつの時代も私を救ってくれる。」
「そんな事は・・・」
「あります。
そんな貴女に、こうして甘えてしまいます。
今回の旅行も・・・」
「ソレは何と無く分かってた。」
「そうですか・・・」
山南は、ソレだけを言うと、腕に力を込める。
暫く互いに声を出す事は無かったが・・・
「先生・・・あの・・・
いつまで・・・」
「桜華。」
「はい?」
「戻ってます。」
「え?」
「呼び方ですよ。」
「あ・・・敬助さん・・・」
改めて指摘を受け、桜華は恥ずかしげに名を呼ぶ。
先程、名で呼んだのは、今迄とは違う・・・自分達はコレから新たな気持ちで始める・・・
そんな想いも込めて(元々卒業したら、撫で呼びたいという気持ちもあったが)、呼んだんだのだが・・・つい今迄の習慣で、気を抜いたら戻ってしまった。
「はい。」
少し楽しげな山南の声に桜華は安堵する。
「そろそろ、離して・・・」
「そうですねぇ。」
「せ・・・敬助さん、ここ外だし。」
先程までのやり取りを思うと、自分でも改めて言うのが可笑しいかなと思いつつ・・・
「外では限界が有りますしね。」
「え?」
少し驚いて顔を上げると、綺麗に微笑む山南の顔が。
ソレを見て桜華は、自分の想いが伝わった事を確信した。
「もう少し、函館を見たいでしょう?」
「は、はい。」
「では、行きましょう。」
山南は抱きしめている腕を緩め、そのまま肩に手をかける。
肩にかけられた手のぬくもりを感じ、桜華は幸せそうに微笑む。
山南もソレを見て一層と笑みを深めると、肩を引き寄せ歩き出した。
The END
→あとがき